研究課題
昨年度にプロットを設定したマングローブ林内で、植物バイオマスプールと土壌圏炭素(SOC)プールの推定を行った。河畔に近い混交林では地上部が27.1 ton C /ha、地下部が8.4 ton C /haであった。また上流のオヒルギ林では、地上部が110 ton C /ha、地下部が 35 ton C /haと推定された。これは熱帯地域のマングローブ林と比較すると比較的小さな値であった。一方でSOCプール(1 m深度)は、混交林で238 ton C /ha、オヒルギ林では201 ton C /haであり、バイオマスに比べて土壌炭素ストックがかなり大きな森林である。また深度別の有機物含量をみると、両サイト共に深くなるほどC含量が多くなるような特異的な性質を示した。さらに各深度の土壌炭素のδ13Cの解析から、オヒルギ林ではδ13CはほぼC3植物の値と等しく、陸上植物起源の有機物が蓄積していると考えられるが、混交林では深度が深いところで、δ13Cが大きくなり陸上植物以外の有機物が土壌炭素に関与することが示唆された。一方で、吹通川の河川水に含まれる溶存有機物量は0.5~1.7 mgC/ L程度であり,季節的な変動よりもむしろ降雨などのイベントがあるとその濃度が高まる傾向があった。また,溶存有機物における難分解性の腐植成分の割合は平均60%と,日本の他地域の河川水よりも高い傾向にあり,おそらく陸域土壌に由来する腐植成分の寄与が大きい。さらにマングローブ林内土壌と海水を混合培養し、溶出した有機物含量と鉄含量を測定する実験から、土壌から溶出した有機物と結合して、河川水中に鉄が運搬されていることが示唆された。水界生態系での生物生産性向上に鉄が不可欠である事から、河川及び沿岸海洋の生産量にもマングローブ林が寄与することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、1) マングローブ林内での有機物生産と分解、2)マングローブ林内での土壌腐植の質と堆積プロセス、3)川を通した流域レベルでの有機物動態の三つの側面から研究を行い、マングローブ林の巨大な土壌炭素蓄積に与える、森川海の連環と微生物学的・土壌有機化学的プロセスの影響の定量的な評価を目指している。1)については初年度の成果として既に報告しているが、今年度も植物生産量の推定のために、コドラート内の樹木の成長量の調査を行うと共に、リタートラップを設置して枯死脱落量についても継続的に調査している。さらに生態系内での分解速度に関係する土壌呼吸量についても、昨年度から継続して調査を行なっている。特に潮位変動と土壌呼吸量の関係について明らかにするために、自動開閉式チャンバーを用いて干潮から満潮までの変動を含むように土壌呼吸速度の連続測定を試行している(これらはデータの解析中で、本年度の結果には報告していない)。2)については土壌炭素プールの量を測定すると共に、起源解析のために土壌腐植の質として炭素・窒素含有量とδ13Cの解析を行った。場所と深度によってδ13C値は異なり、堆積プロセスも異なることが示唆された。3)については吹通川上流部の常緑樹林地域から、マングローブ林内を通って、海までの複数の地点で季節的に河川水をサンプリングして、溶存有機物(DOC)の量と質についての測定を行った。さらに河川への鉄供給にマングローブ林土壌と海水の混合が寄与していることが示唆された。これらの結果は、マングローブ林の河川では難分解性腐植成分が相対的に高いだけでなく、マングローブ林土壌が河川への鉄供給源となっていると言う点から、森川海の物質的な連環の一端を明らかにしつつある。このように本年度はそれぞれのグループでほぼ計画を達成した。
本研究では、マングローブ林の土壌炭素蓄積プロセスの解明のために、1) マングローブ林内での有機物生産と分解、2)マングローブ林内での土壌腐植の質と堆積プロセス、3)川を通した流域レベルでの有機物動態の三つの側面から研究を行っている。2年間における、各グループの研究において1)~3)について定性的な評価が出来てきているが、最終年度である本年度には、土壌蓄積に与える各種フラックスの年間量を推定して、その定量的な評価を通したコンパートメント・モデルの作成が残された課題である。1)については直径成長の測定とリタートラップの年間を通じた回収を行う事によって、太根の生産を含めた樹木の年間生産量を推定する事が可能になる。しかし細根の生産量とターンオーバーについての研究が残されており、イングロースコア法を用いた現地での細根生産の測定を行う予定である。また、分解呼吸については、温度よりも潮位に依存した変化が観測されており、温度や潮位などのパラメータを推定して年間の呼吸量の推定を行う。さらに、本調査地のマングローブ林内には多くの倒木個体(大型木質リター: CWD)が残されており、分解呼吸量として土壌呼吸だけで無くCWD呼吸の測定も行う予定である。2)については生産量を調査しているマングローブ林内での土壌のサンプリングと試料調整についてはほぼ終了している。これらのサンプルについて炭素・窒素含量とδ13Cの測定だけで無く、土壌有機化学的な質的解析を行う予定である。これは3)で行っている河川水中のDOCの質的解析と関連して、土壌起源の解析に用いられる。また3)については河川水中のDOCについても季節的な変動や定性的な量の変化について調査が終了しているので、年間のDOCフラックスを定量的に評価するための流量測定などを行う予定である。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (6件)
Ecological Research
巻: 28 ページ: 855-867
Journal of Water and Environment Technology
巻: 11 ページ: 131-142
地学雑誌
巻: 122 ページ: 615-627
Soil Biol. Biochem.
巻: 57 ページ: 60-67
Humic Substance Res
巻: 10 ページ: 1-9
日土肥誌
巻: 84 ページ: 224-229