研究課題/領域番号 |
24657018
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
坂本 信介 宮崎大学, フロンティア科学実験総合センター, 研究員 (80611368)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 性差 / 繁殖生理 / 季節繁殖 / 性ホルモン / アカネズミ |
研究概要 |
本研究の目的は、季節的環境への適応過程において、繁殖のコストが異なる雌雄に異なる選択圧が働くことで季節的な繁殖生理応答には性差が形成されるという仮説を検証することである。具体的には、季節的な繁殖生理応答に多型を持つ野生齧歯類を用いて、光周性自体に性差があるのか、あるいは、日長以外の要因による光周性への修飾作用が雌雄で異なるのかを検証する。 最も好適なアプローチは、対象種をさまざまな環境条件で飼育した際の繁殖生理応答を比較することであるが、一方で、最も好適な対象種であるアカネズミは飼育下での自然交配による繁殖が極めて難しいため、最適なアプローチが適用しづらいという問題があった。この問題をクリアするために、本年度は、アカネズミの雌雄をさまざまな条件で飼育することで、飼育下での自然交配による繁殖を可能にする飼育法の開発を試みるとともに、繁殖が成功しない個体が好適な繁殖生理状態にあるのか否かをモニタリングするために、性ホルモン動態の解析手法の開発を試みた。性ホルモン動態の解析は通常血清を用いて行われるが、これは小型種にとっては負担が大きい。そこで、糞を用いた非侵襲的な解析法の開発を試みた。 その結果、繁殖率は低いながらも飼育下での自然交配による繁殖を可能にする飼育法の開発に成功した。一方、糞を用いた非侵襲的な性ホルモン動態の解析法については、現在、実験動物マウスでリファレンスとして使えるデータを揃えつつある。 これら2つの手法の確立は、本研究の遂行において極めて重要であるだけでなく、国内外の他の小型哺乳類にも幅広く適用可能な手法である。特に、希少種の保全研究などにも応用可能である点で、汎用性の高い研究成果だと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的を達成するために、本年度は、蛍光Eliza法を利用した糞中ステロイドホルモン測定系の確立(課題1)、屋外での繁殖生理状態の評価系の確立(課題2)、アカネズミの飼育下での自然交配による繁殖を成功させる飼育法の確立(課題3)という3つの課題を実施する予定であった。まず、時間を要する課題1と課題3について実施したところ、当初は最も実現が困難であると考えられた課題3について予想を上回る成果が得られ、繁殖率は低いながらも飼育下での自然交配による繁殖を可能にする飼育法の開発に成功した。これは本研究の目的を達成する上で、大きなブレークスルーとなりえる出来事であった。そこで課題3の実施にエフォートを注ぎ実験を進めることとし、繁殖率を高める飼育デザインの検討を集中的に行うことにした。 一方で、課題1の糞を用いた非侵襲的な性ホルモン動態の解析法の確立については、当初の想定よりも良いデータを得ることが難しく、現在も試行錯誤を続けている。しかし、最近になってようやく、実験動物マウスについては性周期を反映した性ホルモン動態を糞由来のサンプルを用いて解析できるようになってきた。残された問題は血清中の性ホルモン値の変動や膣垢から推定した性周期に対し、糞中の性ホルモン値の変動がどの程度の時間的遅れを持った反応であるかが不明なことにあるが、この課題の一番の目的は、個体が繁殖に好適な状態にあるのか否かを判別することにあるため、現状では、時間的パターンは考慮せず、性ホルモン値の量だけで解析するというアプローチが有効であると考えられる。このような進捗状況を鑑みて、課題2の実施は保留した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、上で述べた課題1を引き続き実施し、解析精度をより高める。その上で、解析をアカネズミに適用可能なものにブラッシュアップするための課題2を実施する。 本研究申請時には、好適な対象種であるアカネズミは飼育下での繁殖が極めて困難であるため、異なる環境条件に対する繁殖生理応答については野外集団を対象に検証するより他に方法がないと考えていた。そのため当初は、アカネズミの全繁殖パターンを網羅するように、本種の分布域で最も温暖な地域と最も寒冷な地域を含むように高標高・低標高調査地を設定し(屋久島平野部;屋久島山地;上田市平野部;菅平高原)、そこに生息する野生集団から繁殖期と非繁殖期に糞を採集して性ホルモン動態を解析することで、それぞれの集団の季節繁殖応答を明らかにすることを次年度に計画していた(課題4)。しかし、本年度に、繁殖率は低いながらも飼育下での自然交配による繁殖を可能にする飼育法の開発に成功した。これにより、当初は実現不可能と考えていた繁殖実験を行うことで、仮説のより直接的な検証が可能となった。これは本研究の目的を達成する上で大きなブレークスルーである。そこで次年度には、季節繁殖パターンが異なる集団間で個体を移動する、いわゆる移植実験を行う計画に変更する。春から秋に繁殖する菅平高原集団と年二峰型繁殖集団から採集した個体を宮崎の半野外飼育施設に移動して飼育繁殖を行い、繁殖パターンおよび性ホルモン動態の変化を検証する(課題7)。 また当初の計画では2年目に北アメリカに生息するPeromyscus属を用いて、課題4と同様の実験(課題5)を行う予定であったが、飼育繁殖実験にかなりの労力がかかることが予測されるので、課題5と課題7を並行的に実施することは難しいと考えられる。そこで課題5は3年目に実施する計画に変更する。
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次年度の研究費の使用計画 |
「今後の研究の推進方策」の項で述べたように、次年度の計画変更が見込まれたため、初年度の予算を出来るだけ節約し、次年度に320000円を繰り越してある。これに当初の計画では次年度に1500000円を計上していたため、1800000円程度を総額として予算を組む。まず旅費については課題5に関する海外への渡航を延期するため大幅に削減される見込みであり、対象地域へのアカネズミの捕獲調査や学会参加に伴う交通費および宿泊費として、300000円を予算として計上している。次年度は大規模な飼育繁殖実験を行うがこれには多大な時間・労力を要する。一方で、初年度に複数の成果が得られているために、実験と並行して論文執筆を進める必要もある。そのため次年度は、実験補助員を雇用して飼育繁殖実験を補助してもらう予定である。飼育に関連する機器の購入や餌代として300000円を、また、飼育担当のための実験補助員雇用のために、600000円ほどを予算として計上している。実験補助員についてはアカネズミの取扱いに長けた大学院生を雇用する予定である。性ホルモン動態解析のためのElizaキットを含め実験に必要な薬品や機器などの購入には、300000円を計上する見込みである。ただし、備品に相当する高額物品の購入は予定していない。以上に加えて、初年度に複数の成果が得られたことから、論文執筆のための校閲費や印刷代を含めその他の費用として、300000円を計上している。これらで合計1800000円である。なおそれぞれの項目の予算をやや多めに見積もってあるので、余剰がでた場合は、翌々年に計画している課題5の実施のための海外への渡航費に用いる。
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