研究課題
哺乳動物は,光周性が制御する季節的な生理応答に著しい性差を示すが,そのメカニズムは明らかでない.本研究は,雌雄間の繁殖コストの差に着眼し,季節環境への適応過程で雌雄に異なる選択圧が働き,このような性差が形成されるとの仮説を検証した.まず,日本固有種のアカネズミが季節繁殖に集団間変異を示すことを野外で確かめ,また,飼育下で難繁殖である本種の継続的な繁殖に成功した.そこで,野外集団と飼育集団を用いて,光周性自体に性差があるのか,あるいは,日長以外の要因による光周性への修飾作用が雌雄で異なるのかを半野外・室内実験で調べた.光周性による繁殖の制御は雌よりも雄で斉一で,暑熱は雌の繁殖生理に強く影響するが,雄には強い影響を与えず,反対に冬季は雌よりも雄の繁殖能が下がる傾向にあった.哺乳類の光周性と温周性は冬眠などの休眠現象で良く調べられてきた.そこで,秋-春繁殖集団の休眠現象を実験室下で調べたところ,雌雄ともに短日・寒冷下で最も休眠を発現した.最終年度は上記の追データをとると共に,野外で自由活動する個体の体温変動を調べ,秋-春に休眠と繁殖を使い分けているか確かめた.その結果,野外では冬季に休眠をせず,雄は冬季になるに従って体温を下げたが,雌はむしろ高い体温を保ち,生殖腺を発達させ続けた.秋-春繁殖集団でも,春-秋繁殖の動物種同様,雌雄ともに冬季適応を示したことから,本種は通常の光周性を持つにも関わらず,繁殖期を柔軟にシフトしうると考えられる.繁殖期の多型は表現型可塑性で維持されている可能性が高い.また,精子が熱に弱いとの一般論に反し,暑熱が雌の繁殖生理に強い影響を及ぼすことが,季節応答の雌雄差の主因である可能性が高い.一連の研究を通じて,目的にしていた「哺乳動物の季節繁殖制御機構に性差を構築する要因の考察」 および「光周性研究に好適な齧歯類材料の探索」を実施できた.
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Behavioral Ecology & Sociobiology
巻: 69 ページ: 1075-1084
10.1007/s00265-015-1920-2
Environmental Science & Technology (ACS Publications)
巻: 49 ページ: 10074-83
10.1021/acs.est.5b01554
https://www.researchgate.net/profile/Shinsuke_Sakamoto/stats