研究課題/領域番号 |
24657019
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
大橋 瑞江 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (30453153)
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研究分担者 |
池野 英利 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (80176114)
岡田 龍一 徳島文理大学, 薬学部, 研究員 (20423006)
木村 敏文 兵庫県立大学, 環境人間学部, 助教 (00316035)
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キーワード | 環境 / 生態 / 社会性昆虫 / 炭素循環 / ミツバチ / エネルギー |
研究概要 |
ミツバチは熱帯から亜寒帯まで幅広い範囲で分布し、数万個体からなる大規模コロニーを長期にわたって維持している。ミツバチの高い環境適応能力は、集団採餌や旋風行動などの様々な社会性行動によって支えられており、ミツバチコロニーは独自のエネルギー循環システムを構築していると予想される。そこで本研究では、コロニーのエネルギー循環、環境動態、個体行動を同時観測するシステムを構築し、ミツバチのエネルギー収支-環境-行動の関連を示すモデルを構築することを目的とした。 本年度は、ミツバチの行動・環境・エネルギー収支を関連づけるモデル式を構築するために、1) Schmickl and Crailsheim(2007)のミツバチコロニーにおける個体数変動のモデル(HoPoMo)に個体識別番号を付与したiHoPoMoを開発した。その後、2) iHoPoMoにOkada et al. (2012)のミツバチの行動モデル(iMoAD-f)を統合し、個体からコロニー動態まで記述可能な新しいモデルMiSaMoを創出した。MiSaMoを用いて、採餌条件の異なる4つの仮想コロニーを設定(Colony1: 採餌の位置を記憶せず、ダンスもせずランダム探索に頼るコロニー、Colony2: 記憶はするがダンス、情報伝達をせず自分の経験だけを頼るコロニー、Colony3: 餌場の記憶、ダンスをするがでたらめな位置情報を伝達するコロニー、Colony4: ダンスによって採餌した餌場の位置情報の記憶、ダンス、情報伝達の全てを行うコロニー)し、ダンス行動の採餌に対する効果の検証を行った。この結果、Colony1・Colony2は1年を通じてハチミツを貯蔵できないが、Colony3・Colony4はiHoPoMoのみの場合と近い値の結果が得られハチミツを貯蔵できることがわかり、ダンスをすることが有効的であるということがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)iHoPoMoの開発 個体群変動モデルHoPoMo (Schmickl and Crailsheim,2007)と採餌行動モデルiMoAD-f(Okada et al.,2012)の2つのモデルを連携させるため、HoPoMoの改良を行った。1日単位で計算が進む個体群変動モデルに、日中の採餌行動を記述した採餌行動モデルを連携することで、採餌行動がコロニー動態に及ぼす影響を調べることができる。連携に際し、iMoAD-fはミツバチを個体ごとに識別しているため、HoPoMo上のミツバチ一匹一匹に個体番号(BeeID)を与えた。 2)MiSaMoの開発 iHoPoMoの採餌バチのBeeIDをiMoAD-fに渡し、それを用いてiMoAD-fで各個体の採餌行動とこれに伴う花粉・花蜜の流入量を計算するモデルMiSaMoを開発した。1日の終わりにこの流入量をiHoPoMoに戻すことで、1年間分のシミュレーションを可能とした。本研究では採餌条件の異なる4つの仮想コロニーを設定(Colony1: 採餌の位置を記憶せず、ダンスもせずランダム探索に頼るコロニー、Colony2: 餌場を記憶するがダンス、情報伝達をせず自分の経験だけを頼るコロニー、Colony3: 餌場の記憶、ダンスはできるが、でたらめな位置情報を伝達するコロニー、Colony4: 餌場の位置情報の記憶し、ダンスによって情報伝達を行うコロニー)し、ダンス行動の採餌に対する効果の検証を行ったところ、Colony1・Colony2は1年を通じてハチミツを貯蔵できないが、Colony3・Colony4はiHoPoMoのみの場合と近い値の結果が得られハチミツを貯蔵できることがわかった。これより、ダンス行動がコロニーの効率的な物質循環に有効であるということがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、1)試作した観察巣箱を用いて、ミツバチ―コロニーにおける炭素の流入、流出、貯留速度のデータ取得、2)コロニー内外環境の測定、を行い、取得したデータを用いた3)MiSaMoのモデル改良およびミツバチの行動変化に伴うエネルギー収支の変動について、シミュレーションを行う。これらの成果を統合し、気候変動下の行動変容による環境適応性の評価を実施する。 (1) 炭素流入、貯留、流出量:流入量については、1時間につき5分間、帰巣ミツバチ数をビデオ画像から手動により計測する。1日の炭素流入量を代表できる時間帯を抽出し、長期の流入量変動を求める。炭素放出量については、巣内のCO2濃度の変動、巣から外部へのCO2拡散速度から単位時間ごとに求め、のちにこれらを積算することで、1日単位、より長期間の放出量を算出する。また夜間の巣板画像からミツバチ個体数を求め、ミツバチ1個体の重量と掛け合わせることでミツバチ重量を算出する。全重量からミツバチ重量、巣板重量を差し引くことで、炭素貯留量を求める。毎時間の炭素流入量、炭素放出量、貯留量をそれぞれ求めることで、ミツバチコロニーの炭素サイクルを明らかにする。 (2) コロニー内外環境の測定:1分毎にロガーに記録されている温度、湿度の各種センサのデータを用いてコロニー内外の温度、湿度環境の変動を求める。姫路市の気象台から、毎日の平均気温、降水量、天候などのデータを取得する。 (3) モデル改良とシミュレーション:MiSaMoで得られた結果について、(1)と(2)で得られた実測値と照らし合わせてモデルの検証を行う。また、モデルの行動パラメータや環境パラメータを変えることで、気候変動下における行動変化とそれに伴うエネルギー循環の変化、の連鎖的反応を明らかにし、社会性昆虫の環境適応性を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は、観察巣箱を用いた実験及び解析と複数のモデルを統合した新モデルの開発の二課題からなっている。今年度は、後者のモデル開発には十分な時間をあてて達成目標を超えた作業を行うことができたが、比較的多くの予算が必要となる前者の課題については、作業に従事する人手を確保することが困難であったため次年度に継続させることとなった。そのため、前者の課題達成に必要な資金を次年度に回すことにした。 物品費:観察巣箱は完成しているが、中に入れるミツバチコロニーを新規に購入する必要がある。また、巣箱内を撮影した映像を記録するためのメディアなどの消耗品を購入する予定である。旅費:これまでの成果を発表するための、学会参加費の支出を予定している。学会参加については、9月に行われる動物学会(仙台)や3月に行われる生態学会(鹿児島)などへの参加を予定している。人件費・謝金:今年は膨大なデータを取得し、解析をしていく予定となっているため、計測補助、データ解析補助、プログラム開発補助など、各種作業の補助にかかる人件費を支出する予定としている。その他:これまでの成果を論文発表する際の英文校正代金の支出、投稿費用などを支出する予定である。
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