研究概要 |
群集生態学における理論予測を実証的にテストするには、種の多様性や種構成、群集構造をモニタリングする技術の開発が欠かせない。そこで本研究では、水域生態系を主な対象に、環境水中のDNAの分析に基づいて迅速かつ定量的に群集構造を解析するための基礎的な手法の改良をおこなうとともに、安定同位体解析などの既存の群集解析手法の実証研究への適用・関連する群集理論の提案をおこなった。代表的な実績としては、以下が挙げられる。(1)フィールドサンプルに適用可能な環境DNAの効率的な濃縮法および抽出法を決定するための実験を行い、フィルター濃縮・フェノール抽出等の組み合わせによる効率的な回収系を確立した(Minamoto et a.., 投稿中)。(2)在来及び外来オオサンショウウオの分布域を迅速に推定する手法を開発し、京都府の桂川水系における外来種の分布拡大を示唆する結果を得た(Fukumoto et al., 投稿中)。(3)環境DNAから魚類個体群の量的評価を行うために必要な情報を得るべく、モデル魚種を用いた飼育実験を行い、環境DNAの放出速度と分解速度が給餌の有無や魚体の生死によってどのように影響されるかを示した。(4)どのような状態で水中に存在しているのか不明である環境DNAについて、試料水のpHの調整や酵素処理の有無などの条件検討を行い、よりDNA補足効率が高くなる濾過・抽出の条件を明らかにした。また、理論面でも多種の環境DNAの時系列データが得られた場合に、それをもとにして群集構造を解析するための手理論研究を行った。具体的には、(5)Convergent Cross Mappingと呼ばれる数学的手法を利用して、環境DNAの時系列から種間の「causality」を予測する方法の開発に取り組んだ。この研究は現在進行中であり、1年以内の査読付き国際雑誌での論文出版が見込まれる。
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