研究課題/領域番号 |
24657021
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 独立行政法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
安田 雅俊 独立行政法人森林総合研究所, 九州支所, 主任研究員 (40353891)
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研究分担者 |
八代田 千鶴 独立行政法人森林総合研究所, 九州支所, 主任研究員 (20467210)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 絶滅危惧種 / 個体群保全 / 自動撮影 / 個体識別 / ウシ科 |
研究概要 |
カモシカ(偶蹄目ウシ科)は、日本固有の大型草食獣で、国の特別天然記念物である。九州では熊本・大分・宮崎の3県の山地に生息するが、個体数は少なく、減少傾向が続いており、地域個体群が近い将来に絶滅する可能性が高い。その保全のために、現在の極低密度下でも有効な、新しい個体数推定法の確立が急務である。カモシカは、顔面の紋様の個体差に基づいて個体識別ができ、角から年齢査定ができることから、自動撮影法を用いた個体識別に基づく、新たな個体数推定法の開発に取り組んだ。1)調査地A(祖母山系:宮崎県・大分県)と調査地B(九州山地:熊本県)においてカモシカの自動撮影調査を継続的に実施した。1 km2あたり1~6台の密度で自動撮影カメラを配置し、月1回の頻度で見回った。計62枚のカモシカの画像を得た。極低密度状態の九州のカモシカについて、短期間に多数の写真を得るための調査技術を開発できた。2)今年度得られた画像から、複数のカモシカ個体を識別することができた。本地域においてカモシカの主要な死亡要因のひとつとされる重篤な皮膚病(ダニ疥癬症)の罹患個体は発見されなかった。これにより、重篤な皮膚病による死亡率は想定されていたよりも小さいと考えられ、個体群保全の方向性を明らかにすることができた。3)森林内に水場や塩場を提供する前段階として、調査地周辺の湧水や渓流水の電気伝導率を計測し、生息環境中の平均的な電気伝導率は20mS/m未満であることを明らかにした。この電気伝導率よりも明確に高い水場・塩場を提供することで、カモシカをより効率的に「誘引・撮影」することができると考えられた。以上の成果は、カモシカ以外の希少な野生鳥獣への応用可能性があり、保全生態学に大きく貢献できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
極低密度状態の九州のカモシカについて、短期間に多数の写真を得るための調査技術を開発できた。得られた画像から複数のカモシカ個体を識別することができた。環境水の電気伝導率を明らかにすることができた。カモシカの生息環境の選択性や調査努力量と撮影頻度の関係が明らかとなり、個体識別の可能性が実証され、今後の誘引・撮影のための水場・塩場に必要となる条件が明らかとなったことから、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
水場・塩場の誘引効果を検証する。これにより、カモシカの撮影効率をさらに向上させる。カモシカが選好する地形に注目して、最適な配置や設置方法を明らかにする。 得られた多数の高解像度画像から、体表の微細な特徴(ナチュラルマーク)を抽出し、個体識別で重要となる部位を明らかにする。外的特徴に乏しく、極低密度な大型獣を「誘引・撮影」することで、個体数や空間分布を把握することを目指す。 個体識別により、対象地域に生息する全カモシカの個体台帳を作成することを目指す。カメラの配置を適宜変更し、調査区に生息するすべての個体を撮影できるよう努める。また、角の高解像度画像から個体の年齢査定を試みる。作成した個体台帳を利用して、死亡個体や一時保護したカモシカ個体から、個体識別や年齢査定の精度を検証する。 初年度は2機種の自動撮影カメラを使用したが、機種間の検出効率や得られる画像の質に差があることが明らかとなったため、データのキャリブレーションのための比較試験を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額(43円)は購入物品の価格に端数があったために発生した。翌年度以降に請求する研究費とあわせて適切に使用する。
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