研究課題
「植物の光や重力に応答した偏差成長(屈曲)は、植物ホルモン・オーキシンの不均等勾配によって生じる」というコロドニー・ウエント説は、1928年に提唱されてから現在まで支持されており、植物生理学の常識として教科書に記載されている。本研究は、オーキシン勾配に依存しない光屈性誘導機構を明らかにするために、シロイヌナズナの根の光屈性をモデル実験系として用い、最終的にコロドニー・ウエント説の書き換えに挑戦するために計画されている。今年度は以下の研究成果を得ることができた。①主なオーキシン排出輸送体であるPINの各種変異体を用いて根の光屈性を調べ、全ての変異体が正常な光屈性を示すことを明らかにした。②オーキシン輸送阻害剤、オーキシン受容阻害剤を用いて、根の光屈性に対する影響を調べたが、どの阻害剤でも光屈性は阻害されず、逆に反応が強まった。③オーキシンレポータータンパク質であるDII-VENUSをもつシロイヌナズナ組換え植物を用いて、根の光屈性におけるオーキシン分布パターンを調べると、オーキシンが照射側に多く分布するパターンが得られ、これまでの知見とは逆のパターンが得られた。④オーキシン受容体であるTIR/AFBファミリー及びABP1の突然変異体を用いて根の光屈性を調べると、afb4 afb5 二重変異体で部分的ではあるが光屈性反応が弱まっていた。この結果は、何らかの形でオーキシン受容が根の光屈性に関係することを示しており、非常に興味深い知見であると考えられる。⑤オーキシンシグナル伝達系の正の転写制御因子であるARF7、ARF19、MYB77遺伝子の三重変異体を作成し、根の光屈性を調べた。三重変異体でもほぼ正常な光屈性を示しており、これらの転写制御因子は根の光屈性には必要ないことが分かった。⑥シロイヌナズナ完全長cDNA過剰発現株をスクリーニングし、根の光屈性に異常を示す株を分離した。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度に行った研究については、以下に示すように申請書に記載した研究計画に即しておおむね進んでおり、順調に進行していると思われる。①根の光屈性に対するオーキシン輸送体の機能解析では、オーキシン排出輸送体であるPINの各種変異体の解析およびオーキシン輸送阻害剤の影響を調べることができた。②光屈性におけるオーキシンの分布パターンの解析では、オーキシンレポータータンパク質であるDII-VENUSを用いた解析、シロイヌナズナと同じアブラナ科であるブロッコリーの芽生えを用いて、内生オーキシン分布を調べるための予備実験も行うことができた。③オーキシン受容体やオーキシンシグナル伝達に係わる転写制御因子の解析では、関連する遺伝子の突然変異体を準備するとともに多重変異体を作成し、光屈性の表現型の解析を行うことができた。④根の光屈性に関連する新規因子の同定では、シロイヌナズナ完全長cDNA過剰発現株から根の光屈性に異常を示す株を幾つか分離することができた。
①根の光屈性に対するオーキシン輸送体の機能解析では、ABCB オーキシン排出輸送体、AUX1/LAX オーキシン取込み輸送体の関与を調べるために、各種変異体の表現型を解析する。②根の光屈性におけるオーキシンの分布パターンの解析については、オーキシンレポーター遺伝子を用いて、各種変異体の影響、オーキシン輸送阻害剤やオーキシン受容阻害剤の影響を調べる。また、シロイヌナズナと同じアブラナ科植物であるブロッコリーの芽生えを用いて内生オーキシン分布を調べ、これまでに間接的な手法で調べたオーキシン分布の結果の妥当性を検証する。また、最近明らかになったオーキシン生合成の律速因子であるYUCCAの多重変異体を用いて、オーキシン生合成の関与を調べる。③光屈性におけるオーキシン受容体の関与については、オーキシン受容体であるTIR/AFBファミリーやABP1の多重変異体を作成し、それらの根の光屈性を調べる。④根の光屈性に働くオーキシンシグナル伝達に関与する転写制御因子については、オーキシンシグナル伝達に働く転写制御因子の各種突然変異体を用いて根の光屈性を調べ、どの制御因子が重要な働きをしているか明らかにする。⑤シロイヌナズナ完全長cDNA過剰発現株から分離した根の光屈性に異常を示す株について、原因遺伝子を明らかにし、その機能解析を行う。大学院生一名が研究に加わる予定なので、申請者と協力して研究を行い、オーキシンの不均等勾配に依存しない根の光屈性のメカニズムを明らかにしたい。
次年度に計上した金額は全額物品費、特に実験に使用する消耗品費として使用する。平成25年度予算は主に分子生物学用試薬や生化学的実験試薬、および各種プラスティック器具消耗品費として使用する。また、得られた成果を外部発表するために、国内外の学会参加に必要な経費や論文投稿費などに充てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
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