研究課題
当初に設定した7つの研究課題のうち、初年度(平成24年度)に主に進展があった(1)生殖器および胞子体において組織・細胞を識別するためのマーカー系統の確立と(2)生殖器および胞子体において組織・細胞特異的な発現を示す遺伝子の探索、(7)生殖器托を中心にした発生過程の形態学的な観察と記載、の3つを中心に研究を進めた。また、(4)組織・細胞特異的な活性をもつプロモーター・コレクションの構築にも部分的に着手した。(3)頂端細胞あるいは気室特異的なマーカー系統の確立に関しては、頂端細胞に限定して進めることにした。一方で、ゼニゴケ研究コミュニティーにおける研究の進展に照らして、(5)miRNA活性のレポーター系統の確立、(6)オルガネラや細胞区画を識別するためのマーカー系統の確立に2課題に関しては、他の5つの課題に努力を傾注するために、着手しない方が適当であると判断した。(1)に関しては、MpLFY, MpPRT等の同定済み遺伝子の発現レポーター株の作出・確立に加えて、エンハンサートラップ系統のスクリーニングがある程度進み、生殖器でレポーター遺伝子の発現が確認できる系統が蓄積し始めている。(2)に関しては、当研究室で別途に進めているRNA seq解析や他の研究室で進められている同様の解析から得られる情報、シロイヌナズナやヒメツリガネゴケにおける知見などにもとづいて探索を進めている。再現性良く受精させ、胞子体を得る系の確立が予想外に難しいこともあり、生殖器に比べて胞子体の進展が遅れている。(7)に関しては、造精器と雄器床を中心に観察と記載を進めている。(4)に関しては、シロイヌナズナに比べ、より長大な領域が必要であるが、同定済みの遺伝子のプロモーターの情報が蓄積しつつある。(3)に関しては、MpLFY遺伝子が頂端細胞を含む領域で発現することがレポーター解析から明らかになった。
3: やや遅れている
労力が拡散し散漫になることを避けるため、初年度の手応えをもとに、進めている5つの課題について、努力を傾注し進展させるべき部分を見極めるようにして研究をおこなっているが、エンハンサートラップ系統の作出のための形質転換のトラブルや原因不明の受精効率の低下(胞子体が得られない)などの影響もあり、全体に遅れがあることは否めない。一方で、別途に進めているRNA seq解析で自前のデータが蓄積するなど、研究課題 (2)、(1)、(4) を中心に、研究課題の進展を今後加速することが期待できる材料も得られてきていることから、「やや遅れている」という自己評価とした。
最終年度であることから、進めてきた5つの研究課題について、それぞれ、今後の研究で活用できる成果と材料(植物の系統、遺伝子コンストラクト、情報)の蓄積を目指して研究を進める。まず、雄株の生殖能力に変動を生じさせている環境条件や培養条件を特定し、再現性良く受精を実現できる系を確立する。(1)に関しては、同定済み遺伝子の発現レポーター株の解析と特異性が良好なエンハンサートラップ株の確立を進める。(2)に関しては、造精器のRNA seq解析から得られる情報を優先的に用いて、造精器についての材料・情報を充実させることを優先する。また、シロイヌナズナやヒメツリガネゴケの知見をもとに、受精卵から胚を経て胞子体に至る過程で発現する遺伝子の同定を進める。(7)に関しては、造精器と雄器床を中心に進めている観察と記載を完成させる。(4)に関しては、(2)の進展と合わせて、造精器を中心に研究を進めるとともに、初年度に得られた鞭毛関連蛋白質遺伝子など約100個の遺伝子の情報を活用する。(3)に関しては、MpLFY遺伝子の頂端領域における発現を詳細に解析し、この領域を識別できるマーカーとしてMpLFY遺伝子レポーターを利用できる系統を確立する。成果の一部は、編者として準備に着手しているPlant & Cell Physiology誌のゼニゴケ特集号(2016年6月に刊行予定)において公開することを目指す。
形質転換等におけるトラブルや人員不足、スペースの制約などからエンハンサートラップ系統の作成がやや遅れたため。形質転換におけるトラブルは解消し、対策も講じた。エンハンサー系統の作成のための人員とスペースを確保できており、系統が得られつつある。生じた次年度使用額は、エンハンサー系統の作成と確立を進めて当初の目標を達成するために用いる。
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