研究課題/領域番号 |
24657032
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
奈良 久美 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (30322663)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | NMRイメージング / MRI / シロイヌナズナ / 根 / 水輸送 / アクアポリン / 光応答 |
研究概要 |
水分子と相互作用する生体物質の量や種類が変化すると、水分子の動きやすさが変化し、緩和時間(T1やT2)が変化する。シロイヌナズナの野生型と変異体の2系統の水の状態を直接比較するために、2個体の根の密度強調画像、T1強調画像、T2強調画像を同時に取得する技術を確立する必要があった。そこでH24年度は、まず、植物の栽培法とNMR管へのセッティングに関する複数の方法を試した。その結果、2個体の根がまっすぐに伸びるように並べてφ5mmのNMR管に効率よく挿入できる手法がみつかった。そこで次に、密度、T1及びT2強調画像を取得したところ、シロイヌナズナのような細い根においても、根の表層(表皮や皮層を含む領域)と、中心柱の水の状態が異なることを示すデータが得られた。さらに成長(時間の経過)とともに、T1及びT2強調シグナルが変動していく様子も測定できた。この技術的な進歩により、成長の揃った個体を用いて繰り返し実験を行うことで、野生型と変異体の違いを定量的に示すことが可能となったと考えている。このことは、本研究にとって大きな進展であり、根の水輸送調節の仕組みを生きたシロイヌナズナで調べる基盤ができた。 一方で、遺伝子発現解析により、シュートのアクアポリン遺伝子の1つが暗処理によって発現抑制され、遠赤色光によって発現促進されることがわかった。またフィトクロムA変異体でこの現象がみられなかったことから、シュートのアクアポリン遺伝子の発現調節にフィトクロムAが関与することもわかった。以前の研究で見出された遠赤色光による根のプロトンシグナル強度の減少に先立ってアクアポリンmRNAが増加することから、シュートにおける水透過性の変化が根の水動態に影響を与えていると推察している。この成果は、光環境の制御による水の利用効率の改善などの農業的な応用にもつながると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H24年度の主要な計画の1つは、シロイヌナズナの根の2個体同時の水動態の計測技術を確立し、根の密度強調画像に加えて、T1強調画像、T2強調画像を2個体同時に取得することであった。この主要な計画が達成できているので、本年度までの達成度はおおむね良好であると考えている。2系統間のシグナルを定量的に比較することに関しては、成長の揃った個体を用いて繰り返し実験を行い、画像取得条件を詳細に検討するとともに、画像解析法も確立する必要があるため、次年度に持ち越すことになった。しかし、シロイヌナズナのような細い根においても、根の表層(表皮や皮層を含む領域)と、中心柱の水の状態が異なることを示すデータが得られたため、当初予定していたよりも、さらに多くの情報がMRIから得られることがわかった。一方で、MRI装置の故障や連携研究者によるMRI実験の実施が困難であったために、研究代表者及び研究代表者の指導する学生が予定よりも多く出張・MRI実験に従事したため、結果的に水透過性測定やアクアポリン遺伝子発現に関する実験を実施する時間が少なくなった。それでも、根の水透過性測定に用いるプレッシャーチャンバーの試作品が完成し、遺伝子発現解析では光による根の水動態の変動に先立ってシュートで発現変動するアクアポリン遺伝子が特定された。よって本年度の計画はおおむね順調に達成されていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題を推進するために、今後はH24年度とは異なる研究機関・研究者の協力を得、より新しいMRI装置を用いて実験を実施する予定である。新しい装置を用いることで、植物試料をMRI装置にセットしてから、位置や条件を決めるまでにかかる時間が節約でき、これまでより短期間で複数回の反復実験が可能となる。 H24年度においては、T1及びT2強調画像から、シロイヌナズナのような細い根においても、根の表層(表皮や皮層を含む領域)と、中心柱の水の状態が異なることを示すデータが得られた。つまり、根の水の状態や輸送を生きた個体で継続的に調べるには、これまで行ってきた根全体のシグナルをひとまとめにした解析法では対応できない、つまり細胞内外や組織によるシグナル強度の違いも考慮して、解析しなければいけないという課題が見えてきた。そこで、今後は根の組織によるシグナルの違いにも着目し研究を進める予定である。一方で、当初計画していた流れのイメージングに関しては、シロイヌナズナの根の細さとMRIの解像度の低さから、難航が予想される。その代りに、当初目的としていた根に加えて、胚軸のMRIも行っていきたいと考えている。それは、胚軸において細胞の内外のシグナルの違いが明確にイメージングできていること、根の水動態変化に先立ってシュートのアクアポリン遺伝子の発現が変化していることから、シュート(葉や胚軸)の水の状態も根の水輸送調節の仕組みを考える上で欠かせない情報であると判断したからである。これらのMRI実験に加えて、アクアポリンの発現解析、根の水透過性の測定を行うことで、野生型と変異体の間に水に関する違いが存在するかどうかを明確に示し、根の水輸送の仕組みの一端を発見したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度に当初予定していた金額よりも、以下のような理由で研究費が超過したため、H25年度分の予算(10万円)を前倒して使用した。前倒し請求が必要になった理由は以下の通りである: 1) 研究に使用した装置の不調などから、MRI実験回数が予定よりも多くなり、奈良から横浜への旅費が予定額を超過した。 2) 本年度は研究開始年度であったことから、NMRチューブや遺伝子発現解析に用いる試薬を新たに購入しなければならなかったため、当初の予定よりも消耗品費が超過した。 3) 横浜での実験に必要な試料や実験器具の送付にかかる運送料も、予定額を超過した。実験回数が増えたばかりでなく、実体顕微鏡やモニター等、試料の観察に必要な機器をNMR装置の傍で使用したほうが効率的だったため、予定とは異なりこれらの機器を奈良から横浜に送付する必要がでてきたためである。送付した試料・器具・機器を奈良女子大学に返送する費用も実験回数に応じて増加した。 実験器具等の送付にかかる費用について正確に予測するのが困難だったため、約900円の研究費を次年度に使用することとした。この経費は消耗品費として使用する。その理由は、H25年度から新たな装置を利用するに当たり、装置に合わせた実験器具を購入する必要があるためである。
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