研究課題/領域番号 |
24657032
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
奈良 久美 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (30322663)
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キーワード | シロイヌナズナ / 水輸送 / 細胞成長 / 根 / MRI / NMRイメージング / 光応答 / アクアポリン |
研究概要 |
H25年度は、H24年度とは異なる研究機関・研究者の協力を得て、より新しいMRI装置を用いて実験を実施した。装置変更のため、予想よりも多くの時間を予備実験に裂くこととなったが、シロイヌナズナの野生型と光受容体変異体の根のMR像を同時に取得することが安定してできるようになった。その上、これまでより短期間で複数回の反復実験ができるようになった。根の密度強調(PD)画像、T1強調画像、T2強調画像を取得し、野生型と変異体の根の水の量や状態を直接比較したところ、両者の間でPDシグナルに統計的に有意な差がみられた。このシグナルの違いは、根の太さや細胞サイズの違いから予想した水分量の違いと一致していた。T1強調およびT2強調シグナルについても、両者の間に有意な差がみられている条件があり、根の水の状態が異なっている可能性が示された。この野生型と変異体におけるシグナルの違いについては、次年度も慎重に検討していく予定である。MRIと並行して、根の長さや細胞サイズの光と糖による調節に関する研究を進め、野生型とある光受容体変異体の根の長さや太さが、ある特定の光条件やショ糖濃度においてのみ異なってくることがわかった。さらに暗所で発現増加するアクアポリン遺伝子の一つについて、複数の光受容体がタンパク質量の明暗による変動に関与していることが示唆された。またシロイヌナズナの根の水透過性を測定するための装置と水耕栽培装置の改良を行い、根の水透過性を効率よく測定できるようになった。以上に述べた研究により、根の水の状態や水輸送に関わる因子について、様々な側面から調査していく準備が整ってきた。今後は、光や時計によるアクアポリンの調節と根の水透過性の調節の仕組みを重点的に調べる一方で、根の水の状態や細胞サイズを比較解析し、植物の健全な成長に欠かせない根の成長やはたらきの調節の仕組みの一端を明らかにしていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MRIを用いて、シロイヌナズナの根の水分布や流速を効率よく解析できる技術を開発するのが研究目的の一つである。H25年度は装置の変更に伴い、野生型と光受容体変異体を用いて、根の水の状態を比較解析することに目的を絞り込み、実験を行った。このため野生型と変異体の根の水の状態の比較については、効率よく解析できる手法が確立できた。したがって、シロイヌナズナの根の水分布・状態を比較する技術開発に関しては、目的をおおむね達成できたと考えている。しかし、当初H25年度において試す計画であった流速の違いを画像化する実験を試せていない。この理由として、装置の変更に伴い、解析に用いる試料の大きさ(水分量)に制限が加わったこと、多数の利用者がいる装置のため利用可能な日数が限られ、長期間での連続測定が難しいことなどが挙げられる。一方で、2番目の研究目的である、野生型と変異体の根の水透過性の測定に関しては、H25年度においてプレッシャーチャンバー装置と水耕栽培装置を改良し、効率よく根の水透過性を測定することができるようになった。したがって、次年度において複数の変異体の根の水透過性を比較していくことが可能となった。また、水輸送関連遺伝子の発現に関しては、H24年度から引き続き、野生型と光受容体変異体、及び概日時計変異体について、アクアポリン遺伝子のmRNAやタンパク質量、及びタンパク質のリン酸化について調べる実験を行い、野生型と変異体で発現量の異なる分子種を幾つか特定した。これまで用いてきた光受容体や概日時計の変異体に加えて、アクアポリンや植物ホルモン関連の幾つかの変異体を根の水動態、または水透過性を調べる候補として絞り込んだ。よって本年度の計画はおおむね順調に達成されていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究により、わずかに根の太さの異なるシロイヌナズナの野生型と変異体において、MRIで根の水の状態を比較することができるようになった。本年度は、より明確に根の太さ・細胞サイズの異なる変異体(植物ホルモン関連の変異体)を用いて、MRIのシグナルの変化を調べることで、これまでの実験の正確性をはかる。短期間に複数回の反復実験を行い、本技術の信頼性を高めることに力点をおく。当初計画していた、MRIによる流速測定は、装置変更により試料のセッティング法や解像度が大きく変わり、更なる工夫と技術開発が必要となったため、予備的な実験に留める。 一方で、概日時計の突然変異体を用いて、根の水透過性の変化と、アクアポリンの発現、リン酸化との関連性を調べる。プレッシャーチャンバー装置による根の水透過性の測定結果、あるいはアクアポリンの発現等に大きな差異がみられた場合は、MRIによる根の水の状態の比較も行う。状況によっては、胚軸や葉の水の状態のイメージングも実施する。 さらにプレッシャーチャンバー装置を用い、アクアポリンの発現が増加、または減少している系統を用いて根の水透過性を調べるとともに、それらの系統の成長解析も行う。 以上のように、MRIによる根の水の状態の解析結果と、根の細胞サイズあるいは水透過性との間に一定の法則を見つけることを第一の目的とし、根の水透過性とアクアポリンの発現またはリン酸化の状態が異なる変異体を新たにみつけることを第二の目的として、実験を行う。光や時計による根、及び根の細胞の水輸送調節の仕組みの一端を解明するために、野生型と変異体の間に水に関する違いが存在するかどうかを明確に示したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
特注で作製したプレッシャーチャンバー用のプラスチック製器具について、幾つか試作品を作製する必要があった。実験後に再度新たに作製、または納品された器具の手直しを依頼しながら、最も使いやすい形になるよう改良を重ねたため、正確な費用の見積りが難しかった。3月末に依頼した、器具の一部分を切り落とす特注の作業に関して、メーカー側の好意で無償となったこともあり、約1000円の次年度使用額が生じることとなった。 次年度使用額が1000円程度のため、翌年度分の助成金と合わせて物品費として支出し、4月からの消費税増税に伴う様々な試薬・消耗品の税込価格の増加分に充てる計画である。
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