水や無機養分の吸収・輸送を担う根は、植物の健全な成長に欠かせない。この水や無機養分の輸送は光や概日時計をはじめとした様々な外的・内的な因子によって調節されている。本研究の目的の一つは、水輸送に影響を及ぼすと予想される変異体を用いて、Magnetic Resonance Imaging(MRI)による水動態計測を行い、生きた無傷のシロイヌナズナの根の水分布や流速を効率よく解析できる技術を開発することであった。 本研究では、メーカー及び仕様の異なる2台のMRI装置を用い、根の水動態に異常の見られたフィトクロムAの変異体を主な材料として研究を展開した。研究開始からの2年間において、変異体と野生型の根の水の状態や分布を直接比較する手法を確立するとともに、既成のMRI装置でシロイヌナズナのイメージングを行うために解決すべき問題点を洗い出した。最終年度においては、明所と暗所で栽培したシロイヌナズナ野生型の実生の水の状態や分布を解析した。その結果、明所と暗所で栽培した実生の胚軸において水分子の存在状態(細胞サイズや溶質の種類・濃度を反映したシグナル)に統計的に有意な違いが得られた。胚軸よりも細い根では統計的に有意な差を見出すことはできなかったが、生きたシロイヌナズナの実生の胚軸において、細胞サイズや溶質の違いを検出できる手法が確立できたと考えている。この結果は、胚軸であれば流速測定が可能であることも示唆している。 一方で、フィトクロムAや概日時計の変異体を用いた根の形態形成や水透過性、アクアポリン遺伝子の発現解析の結果、環境や内的要因に応じた地上部の成長・形態形成と密接に関連した根の水輸送調節の仕組みの一端が見えてきた。今後も引き続き、分子生物学・植物生理学的研究の成果とMRIによる測定の結果を総合的に考察していくとともに、特にMRI開発分野の研究者と連携して、植物科学の研究に応用しやすい装置や測定法を開発していく必要がある。
|