植物細胞の細胞壁はセルロースを主成分とする多様な多糖ポリマーで構成されており、その存在様式は植物種、組織、分化段階により異なる。セルロース微繊維の配向は細胞の肥大や外部刺激により変化すると考えられており、生細胞でセルロースなどの生体ポリマーの存在様式を追跡できる蛍光プローブは次世代の細胞壁ダイナミックスの研究には不可欠である。本研究では、蛍光蛋白質、セルロース結合モジュール、細胞膜受容体の一部、を組み合わせることにより、生きた植物細胞の結晶性セルロース微繊維を非破壊的に蛍光標識するプローブを開発することを目的とした。 Trichoderma reeseiのcellobiohydrolase由来の結晶性セルロースに結合するモジュール(CBM; cellulose-binding module)とGreen Fluorescent Protein (GFP)をexpansin由来の細胞膜受容体由来のシグナルペプチドと細胞膜受容体BRI1由来の膜貫通領域に組み合わせてキメラ蛍光タンパク質を発現する遺伝子を作製した。この標識遺伝子をタマネギ表皮細胞で一過的に発現させ、共焦点レーザー顕微鏡を用いて細胞壁最内層のセルロース微繊維を観察した。その結果、GFP蛍光は細胞表層に粒子状に観察されたが、粒子同士がつながったビーズ上や繊維状のパターンには観察されなかった。 今回開発した蛍光プローブがセルロース微繊維を認識している可能性は残されるが、この条件下では有用な標識プローブとしては実用化に不十分である。蛍光プローブの発現レベルを低く抑えることや、形質転換植物体を用いて恒常的に低レベルで発現させるなどの更なる改良が必要である。
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