研究課題
挑戦的萌芽研究
“ムラサキイネ”として知られるジャポニカ型イネの芽ばえは、低光量のUV-Bに特異的に反応して幼葉鞘・初葉にアントシアニンを蓄積することを見出し、この反応を指標にして、γ線で突然変異を誘発したムラサキイネからアントシアニン蓄積反応を示さない(あるいは反応が低下した)突然変異体を17系統分離した(13系統は不稔)。本研究では、これらの突然変異体を手掛かりにして、UV-B受容体とシグナル伝達機構の解明を目指す。本年度は分離した突然変異体(M3世代)を栽培して、ホモ系統種子(不稔の突然変異体についてはヘテロ系統種子)を増やした。これらの種子を次年度からの詳細な解析に用いる。本年度は更にUV-B照射によるイネ幼葉鞘の成長抑制反応を解析した。まず、赤色光下で育てたムラサキイネ芽ばえで既に明らかにしていたUV-Bパルス照射により誘導される(青色光パルス照射では誘導されない)UV-B特異的な成長抑制反応は、ニホンバレなどのジャポニカ型イネで一般的に見られることを明らかにした。しかし、数系統のインディカ型イネを解析したところ、インディカ型イネはこの反応をほとんど示さない(あるいは僅かな反応しか示さない)ことを見出した。この発見に基づき、インディカ型イネ(ハバタキ)を供与親とするジャポニカ型イネ(ササニシキ)のCSSL系統を用いて、反応に関与するゲノム領域の解析を行った(研究協力者:農業生物資源研究所・矢野昌裕博士)。その結果、2~3の候補領域を見出した。
2: おおむね順調に進展している
分離した突然変異体の原因遺伝子をマップベースクローニングにより同定する目的で、突然変異体と掛け合わせるインディカ型のムラサキイネを入手する努力をしたが、ムラサキの形質を示すという情報に基づいて入手した系統の芽ばえは全て明確なムラサキの性質を示さなかったり、日本の野外では日長の違いから出穂しなかったりで、マップベースクローニングによる原因遺伝子解析のための準備が大幅に遅れることになった。しかし、ジャポニカ型イネが示すUV-B特異的な幼葉鞘の成長抑制反応が多くのインディカ型系統では観測できないという思いがけない発見もあり、また、この発見からQTL解析でUV-Bシグナル伝達に関与する遺伝子を追求する道が開けた。この新たな進展を考慮して、評価を「おおむね順調に進展している」とした。
1、分離した突然変異体と交配するインディカ型イネ品種の検索と入手(マップベースクローニングによる原因遺伝子の同定に利用):ムラサキ系統のインディカ系統を更に検索する(上記参照)。成長抑制反応もマップベースクローニング解析の表現型として利用できるので、ジャポニカ型イネと同程度の成長抑制反応を示すインディカ系統を検索する。2、初年度、ジャポニカ型イネで観測されたUV-B特異的な幼葉鞘の成長抑制反応が多くのインディカ型イネでは見られないことを見出し、この発見に基づいて、ハバタキを供与親とするササニシキのCSSL系統を用いた解析を進めた。この研究を進展させ、UV-B反応に関与する遺伝子を更に絞り込む。3、マイクロアレイを用いて、UV-Bに応答して発現が誘導される(あるいは抑圧される)遺伝子を検索する。前年度の研究で、UV-Bに応答することが分かっているシロイヌナズナ遺伝子のホモログについて、UV-B応答を調べたが、明確な反応は観測できなかった。そこで、UV-Bに応答するイネ遺伝子を新たに検索することにした。UV-Bに応答することが判明した遺伝子は、アントシアニン蓄積反応、成長抑制反応とともに、UV-Bシグナル伝達の上流因子の突然変異体候補を絞り込むのに利用する。
研究経費は主に分子遺伝学的研究に必要な消耗品の購入、実験補助のための人件費に用いる。平成24年度から平成25年度へ503,646円を繰り越した(物品費45万円、旅費5万円ほど)。この繰越は、マップベースクローニングのための研究に必要な物品の購入時期を次年度へ延期したこと、及び研究打ち合わせの一部予定を次年度へ延期したことによる。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
The Plant Journal
巻: 74 ページ: 226~238
10.1111/tpj.12115
巻: 74 ページ: 267~279
10.1111/tpj.12118