研究課題/領域番号 |
24657037
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
飯野 盛利 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50176054)
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キーワード | イネ / 紫外線B / 受容体 / 突然変異体 |
研究概要 |
ムラサキイネとして知られるジャポニカイネは低光量のUV-Bに特異的に反応して幼葉鞘・初葉にアントシアニンを蓄積することを見出し、この反応を指標にして、γ線で突然変異を誘発したムラサキイネからアントシアニン蓄積反応を示さない(あるいは反応が低下した)突然変異体を17系統分離した(13系統は不稔)。本研究では、これらの突然変異体を手掛かりにして、UV-B受容体とシグナル伝達機構の解明を目指す。昨年度から、分離した突然変異体(M3世代)を栽培して、ホモ系統種子(不稔の突然変異体についてはヘテロ系統種子)を増やし、これらの種子を用いて突然変異体の解析を進めた。その結果、アントシアニン蓄積および形態的形質に単純な遺伝法則では説明できないばらつきが見られ、その原因を解明する必要性が生じた。原因究明および安定した形質の突然変異体を分離する目的で、M4世代植物体を栽培し、その種子を収穫する作業を進めた。昨年度までの研究により、ニホンバレなどのジャポニカイネの幼葉鞘はUV-Bに特異的な(青色光では起こらない)成長抑制反応を示すことを明らかにし、ジャポニカイネで観測されるこの反応はインディカイネでは起こらない(あるいは顕著に低下している)ことを見出した。本年度は、このジャポニカイネとインディカイネの違いに着目した研究を進展させた。前年度からの染色体断片置換系統を用いたQTL解析を継続し、ジャポニカイネとインディカイネのUV-B反応性の違いの原因になる遺伝子は染色体1と12に座位することを示す結果を得た。更に詳細な染色体断片置換系統を入手し、それらの系統の種子を増やして遺伝子座を絞り込むための解析を開始した。本年度はさらに、UV-Bパルス照射により発現制御を受ける遺伝子のマイクロアレイ解析を行った。この解析により、UV-Bで敏速かつ顕著に制御される遺伝子(ほとんどは未解析遺伝子)を特定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
分離した突然変異体の原因遺伝子をマップベースクローニングにより同定する目的で、突然変異体と掛け合わせるインディカ型のムラサキイネを入手する努力をしたが、ムラサキの形質を示すという情報により入手したインディカイネは明確なムラサキの形質を示さない、あるいは日本の野外では日長の違いから出穂しないという問題が生じた。本年度になって新たに入手した系統は明確なムラサキの形質を示し、種子を増やすための栽培を開始した。本計画のマップベースクローニングによる遺伝子同定のための準備は大幅に遅れることになったが、ジャポニカイネはより一般的にUV-B特異的な幼葉鞘の成長抑制反応を示すことを明らかにし、この反応はインディカイネでは観測できない、あるいは大幅に低下している(ジャポニカイネとインディカイネではUV-Bへの反応性が大きく異なる)という思いがけない発見をした。この発見に基づき、QTL解析、およびUV-B特異的な発現調節を受ける遺伝子の解析へと新たな研究の発展がもたらされた。
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今後の研究の推進方策 |
1.分離した突然変異体と交配するインディカ型イネ品種の検索(マップベースクローニングによる原因遺伝子の同定に利用):本年度入手したムラサキの形質を示すインディカイネの種子を増やし、UV-B応答などの性質を調べる。このムラサキイネがマップベースクローニングに利用できないことが判明した場合は、成長抑制反応をマップベースクローニング解析の表現型とする方針に切り替え、ジャポニカ型イネと同程度の成長抑制反応を示すインディカ系統を検索する。 2.ジャポニカ型イネで観測されたUV-B特異的な幼葉鞘の成長抑制反応が多くのインディカ型イネでは見られないことを見出し、この発見に基づいて、ハバタキを供与親とするササニシキのCSSL系統を用いた解析を進めた。この研究を進展させ、UV-B反応に関与する遺伝子が座位する染色体領域を絞り込む。 3.昨年度、マイクロアレイを用いて、低光量のUV-Bパルスに応答して発現が制御される遺伝子を解析した。これらの遺伝子からUV-B特異的なもの(青色光には反応しないもの)を選抜する。さらに、インディカイネ(UV-B特異的な幼葉鞘の成長抑制反応を示さない系統)で同様にUV-Bに反応しない遺伝子を同定する。UV-Bに顕著に応答する遺伝子のほとんどは未解析の遺伝子であることから、新規知見が期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
ジャポニカ型ムラサキイネから単離したUV-B応答の突然変異体系統について、マップベースクローニングによる遺伝子解析を進める計画であったが、それらと交配するインディカ系統が見い出せないなどの問題が生じた。これにより研究計画を見直さざるを得なくなり、未使用額が生じた。 突然変異原因遺伝子をマップベースクローニング法で解析し、マイクロアレイを用いて同定したUV-B応答遺伝子について、Real-time RT-PCRによる詳細な発現解析をする研究に用いる。これらの研究に必要な試薬やUV-B LED光源ランプ、イネ栽培用の培養土などの消耗品の購入が主な用途である。また、得られた成果を学会発表する際の旅費として使用する。
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