研究課題
前年度は、オイルボディのライブイメージング法を利用したオイルボディ形態異常変異体のスクリーニング法を確立した。本年度は、これらの結果をもとに以下の研究を推進した。(1)前年度に引き続き、オレオシン-GFP形質転換体を変異源処理したM1個体を栽培し、最終的に約25,000個体のM1植物からM2種子を採取した。得られたM2種子を用いて、オイルボディ形態異常変異体の大規模スクリーニングを開始した。これまでに約7,000個体のM1に由来するM2種子のスクリーニングを終了し、24系統の変異体候補株を選抜している。顕微鏡観察の結果から、これらの候補株をオイルボディの数が増減するものや大きさが変化するものなど4種類に分類している。各分類の中から有望な表現型を示す12個の候補株を選び、次世代シークエンサーを用いたゲノムリシークエンスを行った。各変異体とオレオシン-GFP形質転換体のゲノム塩基配列を比較したが、変異体ごとに変異箇所が多数あり、配列情報のみからでは原因遺伝子を一つに絞り込むことができなかった。そこで変異体候補株の原因遺伝子座のマッピングを開始した。これまでにオイルボディの数が増加する変異体1系統についてはマッピングが終了しており、マッピング位置とゲノム塩基配列を照らし合わせることで原因遺伝子がトリアシルグリセロールリパーゼであると判明した。(2)前年度のパイロットスクリーニングによって同定したxrn4変異体については、オレオシン-GFPのポストトランスクリプショナルジーンサイレンシングの結果、GFP蛍光の低下と内在オレオシン量の減少が生じ、オイルボディが肥大化していることが判明した。XRN4遺伝子によるサイレンシングの抑制メカニズムを解明するために、xrn4変異体を再度変異源処理し、M2種子を採取した。現在、GFP蛍光が回復するサプレッサー変異体のスクリーニングを始めた。
2: おおむね順調に進展している
M2種子の採取は予定した規模まで終了した。そのうちの約28%については蛍光観察によるスクリーニングを完了し、24種類の変異体候補株を単離することができた。こうしたことから、オイルボディ形態異常変異体の単離から原因遺伝子の同定までの実験手順を確立するという目標は達成ができたと考えている。各変異体の原因遺伝子の特定および機能解析は今後の課題である。原因遺伝子の特定については、ゲノムリシークエンスと遺伝子マッピングの両方を行うことで原因遺伝子を特定する方法を確立できた。残りの変異体についても順次原因遺伝子の特定を進める予定である。
これまでに原因遺伝子が特定できた2つの変異体のうち、xrn4変異体についてはサプレッサー変異体の単離と解析を進め、オイルボディの形成とポストトランスクリプショナルジーンサイレンシングの関連を明らかにする。一方、トリアシルグリセロールリパーゼ欠損変異体は発芽過程における脂質分解能を欠損すると考えられる。種子の発芽過程における脂質分解は、主にオイルボディとペルオキシソームで行われることが知られている。そこで、これら2つのオルガネラに着目してた詳細な表現型解析を行うことで、脂質分解に果たすトリアシルグリセロールリパーゼの役割を解明する。残りのM2種子についてはスクリーニングを続行し、オイルボディ形態異常変異体を網羅的に集める。得られた変異体は、すでに同定済みのものと合わせてオイルボディの形や数、蛍光強度など表現型の違いによって分類する。表現型の似た変異体についてはコンプリメンテーションテストを行い、新規遺伝子に変異を持つ変異体を選別する。ゲノムリシークエンスを行った変異体については順次原因遺伝子のマッピングを実施し、マッピングされた領域の塩基配列を野生型シロイヌナズナの配列と比較することで原因遺伝子を特定する。また、新たなスクリーニングによって得られる新規遺伝子に変異を持つ変異体についても順次ゲノムリシークエンスと遺伝子マッピングを行い、原因遺伝子の特定を急ぐ。平行して、各変異体の詳細な表現型解析を行い、原因遺伝子がオイルボディの形成に果たす役割を解明する。変異体の表現型の検討項目としては、オイルボディ、小胞体、ペルオキシソーム、プラスチドなど脂質の合成・貯蔵・分解に関係するオルガネラの詳細な形態観察、種子や植物体の各器官における脂質含量、脂質中の脂肪酸組成、などがあげられる。これらの情報を統合することによって、オイルボディ形成の分子メカニズムを明らかにする。
本年度4月1日により、基礎生物学研究所から長浜バイオ大学に異動した。研究費の多くは研究補助員の雇用費に使用する予定であったが、研究代表者の異動によって退職した。また、研究室の整備が終了しておらず、新たな研究補助員の雇用を断念した。次年度使用額は、おおむね人件費として予定していた予算に相当する。長浜バイオ大学で研究室を立ち上げて2年目になる。昨年は、植物の培養機器や顕微鏡類など基本的な実験器具を整え、植物の培養やスクリーニング、などができる環境を整えた。次年度は、遺伝子のマッピングや配列解析、タンパク質の分析など分子生物学的、生化学的実験を行う予定である。こうした実験に必要な一般試薬やガラス器具、プラッスチック器具は、まだ不足しているものが多い。次年度の研究費のほとんどは、こうした消耗品費に当てる。
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