研究課題
緑藻綱ボルボックス目には多細胞もしくは群体を形成する3グループが知られている。そのうちスポンディロモルム科は膨潤しない細胞壁で細胞同士が接続した群体を形成することで他のグループと区別される。4属15種が記載されているが、稀産であることや培養が困難なことから分類学的な研究が遅れており、培養株を用いた分子系統学的研究はNakada et al. (2010, J. Eukaryot. Microbiol.) によりPyrobotrysは2種2株のみを用いたものであった。従って、ボルボックス目内の多細胞化を探る上でも、スポンディロモルム科のより多くの培養株を用いた系統分類学的研究が望まれれいた。我々は採集時期や培養法を検討した結果、スポンディロモルム科2属4種の新規培養株を確立できた、それらの形態学的な観察と分子系統解析を実施した。新規株の光学・透過型電子顕微鏡観察によりPascherina tetrasとPyrobotrys 3種の栄養群体の詳細な特徴が明らかになった。また原記載 (Korshikov 1938) 以来採集報告のなかった特異な巨大眼点をもつPyrobotrys elongataの存在が培養株で確認された。分子系統解析の結果、Pascherina とPyrobotrysはそれぞれ他の群体性藻類とは系統的に分離し、スポンディロモルム科は多系統であることが明らかになった。Pyrobotrys casinoensis とPyrobotrys elongataの2種は栄養群体の細胞数が同じで細胞形態も類似しているが、培養株の比較観察で眼点の形態に明らかな差異が認められ、系統的位置も分離したため、両種は別種とするのが妥当であると結論した。従って、ボルボックス目では少なくとも4回独立に多細胞化が起きたことが推測された(論文投稿中)。また、最小多細胞生物シアワセモ(Tetrabaena)のゲノム解読の結果、ドラフト配列が構築された(未発表)。
2: おおむね順調に進展している
これまでに培養株がなかった4細胞性Pascheria新規培養株を確立し、系統解析することでボルボックス目では少なくとも4回独立に多細胞化が起きたことが推測され、現在論文投稿中である。また、最小多細胞生物シアワセモ(Tetrabaena)のゲノム解読は継続している。
4細胞性Pascheriaの新規培養株を詳細に観察し、本生物が真の多細胞生物かどうか確証する。また、最小多細胞生物シアワセモ(Tetrabaena)のゲノム解読の結果のドラフト配列を構築して、多細胞化に直接関与した遺伝子を探索する予定である。
H26年度にシアワセモ(Tetrabaena)の全ゲノム解析を実施する予定であったが、全ゲノム解析に使用するDNAの抽出に時間がかかり、計画を変更し、全ゲノム解析をおこなわないことにしたため未使用額が生じた。
このため、全ゲノム解析はH27年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることにしたい。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件)
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