研究課題
挑戦的萌芽研究
植物の雌雄性と性染色体の関わりをコレンス(1928)交雑の解析を通じて明らかにする。雌雄異株×雌雄同株の正逆交雑には方向性があって、雌雄異株(♀)×雌雄同株(♂)のみが種子をつける。これが雌雄異株を専らにする育種家の間ではよく知られている「コレンス交雑」である。雌雄異株のヒロハノマンテマに重イオンビームを照射して、多数の染色体部分欠失株と両性花変異体(雌雄同株)を単離して、コレンスの交雑が(1) Y染色体の急激な進化によるものか、(2) X染色体のインプリンティングにあるのかを明らかにしたい。その必須アイテムが「4D高速スクリーニング」と「植物XY性染色体欠失ライブラリー」である。コレンス交雑の解析に先立ち、ヒロハノマンテマにおける重イオンビーム照射条件を検討しておく必要がある。重イオンビームを種々の照射条件で照射し、「無性花」と「両性花」の出現頻度を調査した。Y染色体上の「雄蕊(♂)促進領域(SPR)」を欠失すれば無性花に、「雌蕊(♀)抑制領域(GSR)」を欠失すれば両性花になる。一連のSTSマーカーを用いてY染色体の欠失部を同定し、新たに単離したSTSマーカーを加えてより詳細な欠失マップを作製した。また、SlAP3Y欠損株を4個体単離し、SlAP3Yの全長およそ30 kb内で設計した5つのプライマーセットすべてにおいて欠失を確認している。そこで、SlAP3Yのみを完全に欠失している個体の花粉を野生型雌(♀)と交配して種子をつくり、その種子にγ線処理してSlAP3Yと対立遺伝子SlAP3Xの両方を欠失した個体を作出している。この過程で雄蕊と雌蕊の発生に異常のある変異体も28株単離することができた。24年度中に雌雄異株×雌雄同株の正逆交雑(コレンス交雑)を行うこととし、マンテマ属4種でコレンス交雑の再現性をチェックするためにこれら4種の栽培を開始している。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の必須アイテムは「4D高速スクリーニング」と「植物XY性染色体欠失ライブラリー」である。これは草丈が1メートルにもなる大型の雌雄異株植物(例えばヒロハノマンテマ)を圃場でスクリーニングする際の新手法で、植物のエピゲノム研究にはもとより雌雄異株植物の育種や品種改良にも貢献するだろう。今回はこれらの手法を予備的に実施し変異体を28株単離できた。コレンス交雑では、雌雄異株(♀)×雌雄同株(♂)は結実し、その種子は発芽して両性花をつける。この交雑ではY染色体が失われるので基本的には雌花(♀)になるが、花粉親となった雌雄同株のゲノムがY染色体を相補して雄蕊(♂)が生じる。この雄蕊(♂)の形態学的特徴を調べることで、X染色体しか持たない交雑で失われるY染色体を相補しているのは何なのかを類推することができる。この交雑の鍵を握るのが雌雄同株Silene viscosa (2n=24)であるが、これも圃場で順調に抽台し正逆交雑が可能な状態になっている。
コレンス交雑の打破するような変異体を重イオンビーム照射で創出するとともにY染色体創出進化のモデル実験を平行して行う。重イオンビーム照射と高速4Dスクリーニングに関してはマシンタイムの制約もあるので24年から実験を開始する。1) 重イオンビーム照射雌雄異株×雌雄同株・雌性両全異株の正逆交雑:高速4Dスクリーニングと圃場でのスクリーニングを終えたS. latifoliaに、S. viscosaを交雑し、S. latifolia (♀)×S. viscosa (♂)以外で結実するものをスクリーニングする。また、高速4Dスクリーニングで単離した本来雌(♀)のX染色体部分欠失個体とS. conica、S. viscosaの交雑を試みる。2) 重イオンビーム照射雌雄異株の欠失部位の詳細マップと核型解析:雌雄異株×雌雄同株の正逆交雑で稔性があった交雑に関して、欠失部位の詳細マッピングを実施する。また、各染色体の対合の有無を減数分裂期の二価染色体を顕微鏡観察し、不対合の異形染色体の有無を調査する。XY染色体のどういった欠失がコレンス交雑を打破するか明らかにする。3) 雌性両全異株の作出と重イオンビーム照射によるY染色体創成:研究実施は3年を予定している。研究の性質上ステップバイステップに積み上げるのではなくて、実験を基本的には何サイクルか繰り返すことになる。ただし、初年度は「雌雄異株×両性花の正逆交雑(コレンス交雑)の打破」を中心に、稔性調査と雌性両全異株の作出をめざす。一部の異種交雑と夏季の栽培に関しては、チェコ科学アカデミーのBoris Vyskot博士のグループに協力要請することができる。また、残り2年間の研究期間中に、高速4Dスクリーニングを2回は実施したい。
該当なし
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