本研究は、ヒトデ卵成熟誘起ホルモンのシグナル経路の全容解明を目指し、特にシグナル経路の最上流にあって、今なお分子的実体の不明であるホルモン受容体の実体解明を目的として、新規材料であるナノアフィニティービーズを用いて受容体の単離・同定に挑戦した。前年度までに、結合蛋白として同定した3種類の受容体候補蛋白は、rendezvin遺伝子産物が、furinによるプロセシングを受け3つに断片化されて生成すること、また、rendezvin自身はG蛋白共役型受容体(GPCR)ではなく、おそらく他のGPCRと結合して働くことを明らかにし、GPCRの候補として新規ヒトデGPCR遺伝子を卵cDNAからクローニングしていた。本年度は、引き続きrendezvinについての解析を進めると共に、GPCRについて解析を進め、次のような成果を得た。 1. 前年度までに作製した受容体候補蛋白質に対する抗体を使用して、間接蛍光抗体染色を行い、細胞膜上に存在することを明らかにした。 2. 受容体候補蛋白質が受容体として十分かを調べるために、rendezvin mRNAを微小注射し蛋白質高発現により卵成熟が誘起されるか試みたところ、全長のrendezvin蛋白質は発現したものの、3つの断片へのプロセシングが起こらず、機能的な構造でないためか卵成熟が誘起されなかった。今後、furin mRNAを同時に注射するなど、機能的複合体にする工夫が必要と考えられた。 3. 受容体構成因子と予想される新規ヒトデG蛋白共役型受容体 (GPCR)について、cDNA配列をもとに複数の抗体を作製し、この約250kDaのGPCR蛋白質はヒトデ卵細胞膜上に局在することを明らかにした。 4. このGPCRに対する抗体を用いて卵成熟阻害を試み、予備的結果ではあるが、細胞内ドメインに対する抗体で阻害の兆候が見られ、卵成熟への関与が示唆された。
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