研究課題/領域番号 |
24657049
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
水波 誠 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30174030)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | コオロギ / 学習 / 遺伝子組換え / RNA干渉 / 記憶 / 遺伝子発現阻害 / ドーパミン / 一酸化窒素合成酵素 |
研究概要 |
本研究の主な目的は、コオロギでの遺伝子導入法を用いた学習実験系の確立、すなわちチャネルロドプシン遺伝子をコオロギの脳のキノコ体ケニオン細胞で発現させて光刺激により活性化する技術の確立に挑戦すること、またこれに関連して2重鎖RNAを用いた遺伝子発現阻害技術を確立し、学習において罰や報酬情報を伝える伝達物質についての論争に決着をつけることである。 前者のためのステップとしてTranscription activator-like effector nucleases (TALEN)法をもちいたNOS遺伝子へのGFP遺伝子導入の準備を進めてきたが、現時点では明確な見通しが立つには至っていない。引き続き粘り強く研究を進めて行きたい。 後者については大きな進展があった。タイプ1およびタイプ2ドーパミン受容体(DopR1, DopR2)の2重鎖RNAiを合成し成虫コオロギに血中投与し2日後に報酬学習または罰学習を行ったところ、前者では報酬学習は正常であるが罰学習が成立しなかったが、後者では報酬学習も罰学習も正常であった。これはDopR1が罰学習には関わるが報酬学習には関わらないこと、またDopR2はどちらにも関わらないことを示してる。昆虫の匂いと罰や報酬との連合学習に関わる伝達物質に関して、現在2つの説が対立している。我々はコオロギでの行動薬理実験から、ドーパミンニューロンが学習において報酬情報を担い、オクトパミンニューロンが罰情報を担うと主張してきた。一方ショウジョウバエでの受容体発現阻害実験からはドーパミンニューロンが報酬情報と罰情報の両方を担うと提案されている。本遺伝子発現阻害実験の結果は我々のこれまでの薬理実験の結果を裏付けるものである。次年度は引き続きタイプ1オクトパミン受容体(OA1)のRNA 干渉実験などを進め、論争に決着をつけることをめざす。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Transcription activator-like effector nucleases (TALEN)法をもちいた遺伝子導入については、順調に進んでいるとは言いがたい。コオロギにおける標的細胞への遺伝子導入法の確立は必ずしも容易ではないと言わざるを得ないが、今後も研究を粘り強く継続することで、本研究期間内に成果を挙げれるよう全力を尽くしたい。 一方、RNA干渉法による遺伝子発現阻害については、予想を遥かに上回る進展があり、その結果、現在昆虫の学習研究の1つの焦点となっている報酬や罰を担う伝達物質についての論争に決着をつけることが見通せる段階までに立ち至った。 両者を総合すると本研究は概ね順調に進展しつつあり、有意義な成果が得られつつあると評価できよう。
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今後の研究の推進方策 |
Transcription activator-like effector nucleases (TALENs)法をもちいたキノコ体ケニオン細胞への遺伝子導入については、今後も検討を続けて行くが、それとともに本年度に入って発表された新規のゲノム編集技術CRESPA/Casシステム(RNA-guided endonuclease法)を用いた遺伝子ノックアウト/ノックインにも挑戦したいと考えており、現在情報を収集し、計画を練っている。研究は遺伝子ノックアウトから初め、成功すれば外来遺伝子のノックインへと研究を進めていく。 RNA干渉法による遺伝子発現阻害については、今後はタイプ1オクトパミン受容体(OA1)、さらに嗅覚学習の座であるキノコ体ケニオン細胞の発生や機能維持に関わると推測されるoskar遺伝子やsemaphorin遺伝子などのRNA干渉が嗅覚学習に与える影響についての研究に取り組む。後者の2つは、キノコ体ケニオン細胞への遺伝子ノックアウトや外来遺伝子のノックインを可能にする実験系の確立のためのステップとなりうると考えている。 一方、RNA干渉実験の成果の解釈には、RT-PCR法による脳内mRNAの定量や、in situ hybridizationによる遺伝子発現の脳内局在についての研究が欠かせない。それらの実験は未経験であるので技術習得を急ぎ、それらの研究成果をふまえてRNA干渉実験での成果についての総合的な評価を下し、すみやかに論文として取りまとめたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額2,899円は消耗品費の一部として使用する。
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