研究概要 |
本研究では,複雑な時系列規則を持ったマウスの超音波発声の神経機構を明らかにすることを通して、ヒトの言語に見られるような高度な音声情報処理能力の脳機構に迫るとこを目指している。 本年度は,まず超音波発声を録音するために必要な超音波マイクとその録音システムを購入し,そのセットアップを行った.これを用いて,BALB/cとC57BL6/Jマウスのオスがメスの尿の匂いを嗅いだ際の超音波発声を録音した。さらに,通常老化の約2倍の速さで老化が進むことが知られている老化促進モデルマウス(SAMR1, SAMP1, SAMP8, SAMP10)の超音波発声についても収集を行った。各系統における超音波発声のデータのサウンドスペクトラムを計算し,そのパターンを詳細に解析した.複雑な時系列を形成している音要素を抽出し、その時系列規則を推定した。さらに、個々の音要素を構成している音響要素を分類し、それぞれの音要素がどのような音響要素の組み合わせからなっているか分析した。その結果、音要素の組み合わせ、音響要素の組み合わせともに系統差があることが分かった。 マウスの歌は,いくつかの音響要素が集まって音要素を構成し,その音要素の時系列パターンによって特徴づけられている.上記の結果は,そのそれぞれの階層において系統差間に違いがあることを意味しており,遺伝的な違いによってマウスの超音波発声のどの部分が影響を受けるのかという点において基礎的な知見を提供できた.今後の遺伝子組み換えマウスを用いた神経科学的研究へと繋がる重要な結果といえる.
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