研究課題
「学習時に脳内の単一神経細胞内でcAMP濃度は本当に上昇するのか?」これは世界中で誰も未だに示すことができていない問題である。この難問を、軟体動物モノアラガイから単離した脳を条件づけすることで、学習に関与する単一神経細胞においてcAMP濃度が本当に上昇しているのかを検証することが、本研究の目的である。検出方法としては、cAMPセンサータンパク質であるEpac1-campsを用いた。そこでまずは、Epac1-campsを大腸菌で発現させるための至適条件の検討を行い、これを決定した。次に、大腸菌をソニケーション破砕した上清からEpac1-campusを精製し、それがcAMPセンサータンパク質として機能することを確認した。cAMPが結合していないときはFRETが起こりYFPの蛍光強度が強い。しかしcAMPが結合すると、YFPの蛍光強度が小さくなることが確認された。すなわちCFPとYFPの強度比の変化がcAMPの濃度依存的に変化することが確認された。これはin vitroでは、大腸菌で発現・精製したEpac1-campusが、十分にcAMPを計測可能であることを示している。そこでさらに、モノアラガイの単一神経細胞に発現ベクターを導入して発現させるのか、または、タンパク質を人工的に発現させておいて、それを細胞に導入し、高感度で微量検出できるように、イメージング装置を改良して行くのか、このどちらの方法で研究を進めるのかを検討した。結果として、タンパク質を人工的に発現させておいて、それを細胞に導入したほうが良いことが分かった。このことは、Epac1-campsの合成タンパク質を細胞に導入する実験のほうが、汎用性が増すので良いと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
当該年度までは予定通りに進むことは当初から予想されており、その通りに進んでいる。
今後は、脳を単離した状態で条件づけを施し、学習記憶に関与する単一神経細胞内でのcAMP濃度上昇を証明する。モノアラガイは動物個体において、味覚嫌悪学習を習得できる。条件刺激としては嗜好性のショ糖を、無条件刺激としては忌避性の塩化カリウムが与えられると、その後、条件刺激であるショ糖を与えられて、もそしゃく運動(すなわち口を動かしてショ糖を食べる運動)を引き起こさなくなる。これをくちびると脳とを一緒に単離した標本を作製し、そのくちびるにショ糖ならびに塩化カリウムを順次与え、そして最後にショ糖を与える。このときに、この学習で重要な働きを示す単一神経細胞内でのcAMP濃度測定を行う。また一方で、個体学習したモノアラガイから脳を単離してきて、非学習個体の場合と、当該の単一神経細胞内でのcAMP濃度の絶対量も比較してみる。これはEpac1-campsの定量性ならびにその濃度分解能から可能だと考えられる。
イメージング実験用の試薬(消耗品)の購入にほとんどうぃ用いる。また学会発表が可能であればその参加旅費にあてる。
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