真核微生物の中には,環境配列(遺伝子情報)として系統分類学的位置が示されているにもかかわらず,実体が不明な生物が報告されている。これらの生物は,微小細胞,低生育密度,特殊環境生育,高速運動性,さらには難培養性などのために発見困難となっている場合が多いと考えられている。一方で,すでに形態情報が取得され,分類学的な記載はあるものの,塩基配列情報が取得されていないために環境配列で同定出来ない場合も存在する。これを解決するには,形態と遺伝子情報を兼備した生物情報の集積が必要となる。そこで本研究では高速ビデオカメラを用いた真核微生物の同定作業の効率化の手法検討に取り組んだ。まずは既に培養株として維持している遊泳性の藻類およびプロティストを用いて実験を行った。微細な遊泳生物を高倍率で観察し,再度単離するため,観察容器となるチャンバー形状や材質などの検討も実施した。高速ビデオ撮影においては,明視野による外部形態や鞭毛運動の観察に加えて,蛍光顕微鏡を用いた遊泳細胞中の細胞内形態の観察も実施した。色素体の有無や形状を簡便に観察するため,クロロフィルの自家蛍光による形態観察のほか,生体染色剤を用いた核やミトコンドリアの蛍光観察を試みた。さらに形態観察後,同一細胞をユニバーサルプライマーを用いてPCR増幅し,単一細胞での塩基配列情報を取得するため,DNA抽出を経ずに効率的に遺伝子増幅する手法検討も実施した。
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