研究課題/領域番号 |
24657067
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
富谷 朗子 独立行政法人海洋研究開発機構, 海洋・極限環境生物圏領域, 主任研究員 (60392940)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 進化 / シアノバクテリア / 環境 / 多様性 / 酸素 |
研究概要 |
シアノバクテリアは地球史上初の酸素発生型光合成生物であり、その進化は地球史や生物進化を考える上で最も重要な課題の一つである。シアノバクテリアの起源については、光化学系の構造の類似性や分子系統解析などに基づき、非酸素発生型の光合成細菌から進化したと考えられてきた。しかし、その進化過程は未だ不明である。そこで研究代表者は、非酸素発生型と酸素発生型光合成生物むすぶ過渡段階ともいえる、シアノバクテリアの非酸素発生型光合成に着目した。本研究では、野外から非酸素発生型光合成を行うシアノバクテリアを探索し、その光合成特性を生理学的実験により検証し、さらに分子系統・地史学的情報と統合することで、シアノバクテリアの初期進化過程とその背景の解明を目的としている。H24年度は野外試料からの新規株単離を効率的に進める選別法の確立と単離を目的に研究を進めた。 酸素発生型光合成を阻害した条件で、光独立栄養的に生育可能なグループを同定するため、好気/嫌気、阻害剤の有/無を組み合わせた4実験環境下での選択培養系を構築した。環境条件と、光合成微生物の活性と群集組成との関係を明らかにするため、潮間帯に生息する野外シアノバクテリア群集を13C存在下で培養し、同位対比の測定によりその活性を定量化する一方、16S rRNA配列に基づくcDNAライブラリーの作成・解析を通じ、構成微生物群の定量・定性的記載と環境条件に応じた構成の変化について比較考察した。 研究の実施にあたり、オランダ海洋研究所を訪問し酸化還元境界における光合成微生物を用いた実験・解析に関する議論を行った。また、成果の一部については第14回国際微生物生態学会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H24年度は野外試料からの新規株単離を効率的に進める選別法の確立と単離を目的に研究を進めた。非酸素発生的に生育可能なシアノバクテリアを効率的に選別し単離に供するため、嫌気環境下で阻害剤を用いた選択培養を行い、目的とする形質を持つ可能性のある生物群を検出、分類群の絞り込みまで進めることができた。今後さらに実験環境下でその生理学的特性や系統進化を検証するためには、株を単離し、純粋培養系を確立することが必要である。しかし、試料にその他の多様なバクテリア・菌類等が混在すること、野外環境と実験室での培地・培養条件の違い等により、現在のところ、野外試料からの単離・無菌化には至っていない。 研究計画ではこのような遅れを想定し、培養施設から入手した培養株を用いて生理学的特性の検証を進めることとしており、H25年度には引き続き野外試料からの単離株の作成を進める一方で、並行して培養株での実験を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、シアノバクテリアの初期進化過程とその背景の解明を目指し、以下の研究を行う: 1)単離・培養株を用いた新規光合成特性の生理学的検証 H24年度に引き続き、野外試料からの株の単離を行う。同時に、分子系統解析や生理学的検証の比較対象として、培養株保存施設より生態・系統的な特性を考慮して10株を入手し、実験・解析に用いる。非酸素発生型光合成能を探るため、各株を嫌気環境下で培養し、多様な電子供与体の利用した光合成活性を測定する。また、非酸素発生型光合成による生育を確認するため、増殖速度を求める。 2) 酸化還元環境変動への適応過程の復元と酸素発生型光合成生物の初期進化過程 生理学的実験・検証で用いた生物種の系統進化過程を明らかにし、その進化の時期と地球史における酸化還元環境の変遷を対応づけるため、分子系統樹の構築と分子時計による多様化の時期の推定を行う。まず1)で用いた単離株を材料にマーカー遺伝子の塩基配列を決定し、既知遺伝子配列とともに、分子系統樹を構築、分子時計を計算する。1)で実験的に検証した各株の光合成特性と分子系統樹・分子時計、さらに各時代の地球環境を比較することで、非酸素発生型から酸素発生型へ進化の過程の復元を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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