タンパク質X線結晶構造解析は原子レベルで生命現象を解明するための圧倒的に優れた手法であるが,適用するためには良質の結晶が必要である.現在でも,解析に適した高品質の結晶を得るための方法論は確立しておらず,結晶化試薬や,結晶の成長環境の網羅的な探索による偶然的な方法に依存しているのが現状である.そのため,多数の,原子レベルで説明されるべき生命現象や,魅力的な創薬ターゲットタンパク質が,単に結晶作成が困難であるという理由で放置されているのが現状である.本研究では,規則的な機能性有機-無機ハイブリッド複合体を持つ二次元分子材料にターゲットタンパク質をリンクすることによってタンパク質結晶核形成を促進するための技術を確立し,これを利用した全く新しいタンパク質結晶化法の開発を行う.
平成26年度にCPAPhSを利用して,室温で得られたTrypsinの結晶から測定したデータを用いて構造解析を行い,3.0Å分解能での構造解析に成功した.しかし,得られた構造には,活性部位に分解されたペプチドが結合している.それは,結晶化の原因であり,Trypsinの自己分解したものと考えられる.また,CPAPhSを利用して得られたRpf2-Rrs1複合体結晶を調べた結果,結晶中のRpf2とRrs1も断片化された.これらのことから,CPAPhSを用いた結晶化の処理過程には,タンパク質を分解させる要素があり,改良する必要がある. また,結晶中にRpf2とRrs1が断片化される原因を調べるため,Rpf2とRrs1について限定分解処理を行い,その結果,同様な断片化が起こることが分かった.このような情報を用いて,Rpf2とRrs1の断片を作り直し,結晶化を試みたが,3.0Å程度の分解能の結晶しか得られなかった.このことから,CPAPhSが結晶化の促進に何らかの効果があると考えられる.今後,CPAPhSの改良と,結晶化に対する影響を検討し,有用な材料を創製することが期待される.
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