研究概要 |
クマムシは外界の乾燥に応じてほぼ完全に脱水し様々な極限環境に耐性を示すが、その分子メカニズムはほとんどわかっていない。近年我々が行ったゲノム・トランスクリプトーム解析の結果、ヨコヅナクマムシでは乾燥時の遺伝子の発現変動は極めて少なく、耐性に関わる遺伝子群は常に発現していることが示唆された。一方で、クマムシ固有の新規遺伝子群が常時大量に発現していることも明らかとなり、これらの遺伝子産物群がクマムシ固有の耐性メカニズムに寄与している可能性が考えられた。 本年度は、まず最も発現量が多いA1について、タンパク質の発現変動を胚発生過程及び幼体、成体について詳細に解析した結果、繁殖可能期の成体および胚発生初期に多く発現するが、胚発生後期から幼体にかけて急激に減少することがわかった。また、これまでに固有の熱可溶性タンパク質であるCAHS, SAHSがヨコヅナクマムシで大量発現することを示してきたが、これらと乾燥耐性との関係を明らかにするために、乾燥耐性の弱いクマムシ種を用いて熱可溶性タンパク質の探索を行った。その結果、耐性の弱い種でも熱可溶性タンパク質が存在するが、その量は耐性の高い種よりも少ない傾向があることが明らかになった。さらに、クマムシ細胞内のオルガネラの乾燥耐性機構を解析する端緒としてミトコンドリアに局在するクマムシ固有のタンパク質群を同定した。 本研究課題を通して、これまでまったく性状が分かっていなかったクマムシ固有の大量発現遺伝子A1の翻訳産物が高次構造体を形成する性質を持ち、成体及び胚発生初期に多く発現すること、また、乾燥耐性への関与が示唆される熱可溶性タンパク質について耐性の異なるクマムシ種間で発現量が異なることを明らかにした。さらに、クマムシのミトコンドリアに局在する固有のタンパク質群を同定し、クマムシの細胞内小器官の耐性機構を解析する道を拓いた。
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