研究概要 |
本研究は, DNAクランプ分子を結晶化シャペロンとして利用したタンパク質の新規結晶化技術の開発である. PCNAなどのDNAクランプは一般に3量体のリング構造を形成する. DNAクランプは, 分子の対称性が高いこと, それ自身が比較的容易に結晶化することから結晶化シャペロンとして有用であると考えた. 本研究計画では, 部位特異的変異導入によって会合状態の異なるDNAクランプを作成し, それらを結晶化したい目的タンパク質に融合させ, DNAクランプを結晶化シャペロンとして利用できる系を確立する. 本研究が開発する結晶化技術は, タンパク質の結晶化における有効な選択肢の1つになると期待できる. 当該年度は, Protein-XとProtein-Yをモデルたんぱく質として, PCNA融合たんぱく質の調製・結晶化・X線実験を行った. Protein-Xについてはヒスタグの無い系を検討し, Protein-Xについてはヒスタグの無い系とN末端あるいはC末端にヒスタグを付加した系を検討した. Protein-Xに関しては, 3.0Å分解能程度の回折を示す結晶を得ることに成功し, データセットを収集した. PCNAをモデル分子として, 分子置換法による構造解析を検討したところ, Protein-Xについては有意な解を得ることが出来た. しかしながら, PCNA部分の構造は決定できたものの, Protein-Xの電子密度は曖昧であり, Protein-Xが結晶中で揺らいでいると考えられた.Protein-Yについては, N末端にヒスタグを付加した系では, 凝集する傾向を示し, C末端に付加した系では, 精製過程での分解が見られた. ヒスタグのない系では3.0Å分解能程度の回折強度データを得ることに成功し, 現在, 分子置換法による構造解析を試みている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Protein-Xに関して, 構造解析可能な分解能のX線回折強度データを収集することに成功したが, Protein-Xが揺らいでおり, 構造を決定することが出来なかった. PCNAとProtein-Xとの間のリンカーを工夫する必要があるかもしれない. また, ヘテロなDNAクランプを用いたベクターの構築が遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
Protein-XはZnフィンガータンパク質で, 分子量が10kDa以下の比較的小型のタンパク質である. そのため, Protein-Xは結晶中で揺らいでしまっていると考えられる. したがって, テストサンプルとして他のタンパク質を検討する必要がある. すでに, 新たにProtein-Zの発現系の構築を進めている. 発現系が完成次第, 試料調製・結晶化・構造解析を勧めていく. また, ヘテロDNAクランプを利用した結晶化シャペロンベクターの構築を進め, 複合体の結晶化への利用を図る.
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次年度の研究費の使用計画 |
ベクター系の構築のため, オリゴDNA, PCR酵素, 制限酵素などの消耗品, 結晶化スクリーニングを実施するための結晶化試薬類を購入する. また, これらの実験に必要な少額備品を購入する予定である.
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