研究課題/領域番号 |
24657079
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
千田 俊哉 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (30272868)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 結晶工学 / クライオプロテクタント / タンパク質 / 結晶化 / 分解能 / X線結晶構造解析 / データベース / 回折データ測定 |
研究概要 |
多段階でクライオプロテクタント溶液にソーキングする手法を確立し、CagA結晶の質を10A分解能から3.1 A分解能に改善した。二段階で二種類の異なる種類のクライオプロテクタント(トレハロース+PEG1000もしくはトレハロース+PEG4000)にソーキングした場合には、CagAのN末端側(1-261番)のドメインの電子密度が明瞭ではなく完全なモデルを組み立てることが困難であったが、方法をさらに進化させ、三段階で三種類の異なる種類のクライオプロテクタント(トレハロース+PEG1000+PEG400もしくはトレハロース+PEG4000+PEG400)にソーキングすることにより、N末端側(1-261番)のドメインが明瞭になり、最終的には1-876番のモデルを組み立てることができた。CagAのX線結晶構造解析については、学術論文誌で成果発表を行った (Hayashi et al., Cell Host and Microbe. 12, 20-33)。CagA結晶を改善するまでの段階で収集した1045個の結晶のデータを詳細に分析した結果、多段階でクライオプロテクタントにソーキングする手法「multi-step soaking method」は結晶の質を改善するために有効であることが明らかになったため、我々のグループで結晶構造解析を試みている他のタンパク質結晶にこの方法を適用し、結晶の質を改善することを試みた。その結果、当初3.5 A分解能の回折しか生じなかった結晶の質が最終的には2.1 Aまで改善され、2.5 A分解能以上の回折を生じる結晶の割合も10%程度から50%程度まで大幅に向上した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三段階で三種類のクライオプロテクタントにソーキングする方法の確立のために、新たにソーキング条件の探索と回折強度データ収集を行った。その結果、X線を当てた結晶の数が増えトータルで1045個となった。これらの全ての結晶のデータを用いて結晶学的処理と結晶の質の関係を分析するために、データシートの策定を行った。現段階におけるデータシートは、各々の結晶にIDを付け、変異体の種類、結晶化条件、結晶の大きさ、ソーキング条件、回折の最大分解能、データ名を入力できるものとなっている。また、ソーキング条件にもIDを付けることによりソーキング条件別にデータをソートできるようにした。現在までに1045個の結晶についてのデータ入力が完了しており、ソーキング条件別や変異体の種類別にデータをソートすることにより、結晶工学的処理の条件と結晶の質の関係を解析できる状態になっている。代表的なソーキング条件について3.5 A分解能以上の回折を生じた結晶の割合を計算した結果、トレハロースのみ、エリスリトールのみの時にはそれぞれ1.2%、15%という低い割合であったのに対して、トレハロース+PEG1000、トレハロース+PEG4000に二段階でソーキングした場合にはそれぞれ70%、58%、トレハロース+PEG1000+PEG400、トレハロース+PEG4000+PEG400に三段階でソーキングした場合にはどちらも約50%という高い割合で3.5 A分解能以上の回折を生じる結晶が出現したことが明らかになり、多段階でのソーキングが結晶の質を改善するために有効であることが実証された。今年度は、過去に収集したデータのデータベース化、データの統計解析、他のタンパク質結晶への適用までを行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに入力が完了しているCagA結晶のデータ(1045個)にノンパラメトリック統計や重回帰分析の手法を適用し、結晶の質の改善に寄与したパラメータ(クライオプロテクタントの種類や濃度、ソーキングの時間や温度、変異体の種類、結晶の大きさなど)の決定を行う。これらの統計解析を行う処理プログラムは汎用統計パッケージの”R”やスクリプト言語の”PERL”を組み合わせて作成する予定である。また、多段階でのソーキングで結晶の質を改善することができた他のタンパク質結晶のデータ(既に数百個の結晶からのデータを収集済み)についてもデータベースへの入力を行い、結晶の質の改善に寄与したパラメータを詳細に解析する。さらに、我々が取り扱っている他のタンパク質結晶に対してこのシステムを適用する予定である。具体的には、様々なクライオプロテクタントを含む標準母液にシステマティックに結晶をソーキングし、データベースへの入力を行いながら回折データ収集を行う予定である。この作業を行いながら、入力フォーマットやシステムの改訂を進める。そして、最終的には、新規のタンパク質結晶に対して結晶工学的処理の方向性を示すことができるシステムの構築、システムのコミュニティーへの発信を目指して研究を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
計算用のコンピュータは今年度に購入したため、膨大なデータの処理を行うための設備に問題はない。 H25年度は、我々が取り扱っている他のタンパク質結晶を用いて結晶工学的処理を行うために、結晶工学的処理に用いるクライオプロテクタント等の試薬を購入する予定である。現在使用しているHampton Research社のCryoProに含まれるクライオプロテクタント試薬は20-50%の水溶液となっており、標準母液と混合すると濃度が薄くなってしまうため、CryoProに含まれる試薬を中心に粉末の試薬を購入し、30%程度の高濃度で標準母液に加えられるようにする予定である。クライオプロテクタントを含む標準母液のpHをチェックするために、微小電極も必要である。また、結晶化及び結晶のハンドリングに用いる消耗品(結晶化プレート、カバーグラス、クライオループ、結晶をビームラインでマウントするためのCrystal Capなど)、膨大なデータを保存するためのハードディスクを購入することが必要である。さらに、学会等での研究成果発表を行うための国内旅費、論文発表を行う際の英文校閲(投稿時、リバイス時、最終投稿時)が必要となる予定である。
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