研究課題/領域番号 |
24657087
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小嶋 誠司 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (70420362)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 細菌べん毛 / モーター / 膜タンパク質 / 構造変化 |
研究概要 |
細菌べん毛モーターにおいて、エネルギー変換を担う固定子は回転子周囲の適切な場所に十数個配置され機能している。ビブリオ菌PomA/PomB固定子複合体は、モーターに集合するとPomBのペリプラズム領域に大きな構造変化を誘起して固定され、イオン透過能を活性化すると考えられている。しかし本当に機能に必須な構造変化が生じているのかは不明である。本研究では、精製固定子をリポソーム上に再構成し、PomBの結晶構造から予測される構造変化部位に、局所環境変化により蛍光強度を変化させるプローブを導入して、構造変化の検出を試みることを目標にしている。 本年度は、まずPomA/B複合体の大量発現および精製法の改良を行った。我々はこれまでpETベクターによる発現系を用いてPomA/B複合体を発現させていたが、思った以上に発現量が低く、精製標品の収量は低いままであった。試行錯誤の結果、コールドショックによる発現誘導が特徴のpCold ベクターを用いた発現系で、顕著に発現量が向上することが分かった。加えてPomA/B複合体のカラムへの吸着やカラム洗浄の条件検討を行うことで、より純度の高い精製標品を短時間で得ることが出来るようになった。リポソームへの再構成も、バイオビーズによる界面活性剤除去の条件や凍結融解の回数などを検討することで、まだ収率は低いが、イオン透過能を保持した状態での再構成ができるようになった。さらに、大きな構造変化が予想されるPomBのペリプラズム領域(PEMドメイン)にジスルフィド架橋を導入したところ、固定子の機能(モーターの回転)が架橋に依存して阻害されることが明らかとなった。以上により、本研究の核となる、再構成固定子にプローブを導入して構造変化を検出する実験のために必要な準備を、本年度十分に行うことが出来たと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、べん毛モーター固定子が回転子周囲に自己集合する際に誘起される、固定子ペリプラズム領域の構造変化の検出を目的としている。具体的には、固定子を精製し、結晶構造から予測される構造変化部位に、局所環境変化により蛍光強度を変化させるプローブを部位特異的に導入してリポソーム上に再構成する。もしも構造変化が誘起されるならば、プローブの発する蛍光強度の変化で検出が可能と考えられる。 本年度は、研究計画調書において初年度に計画していた、精製した固定子をリポソームへ再構成するところまでを目標に研究を進めた。PomA/B固定子複合体の精製と再構成は、以前に我々の研究室で成功しているが、精製中に複合体が解離するなど調製が困難で、変異体を多数解析することが出来ていない。そこで、まず大量発現系を見直し、pColdベクターを用いることで、誘導後に全細胞サンプルで明らかにバンドが確認できる程度まで発現量を上げることに成功した。さらに可溶化PomA/B複合体のカラム吸着および洗浄条件を再検討し、短時間で比較的純度の高い精製標品を得ることに成功した。リポソーム上への再構成はまだ確立できていないが、バイオビーズを用いた界面活性剤除去や、凍結融解によるリポソーム融合などの条件を検討し、PomA/B複合体を介したNaイオン透過能を何とか計測できるところまで到達している。 一方で、大きな構造変化が予想されるPomBのPEMドメインにジスルフィド架橋を導入したところ、固定子の機能(モーターの回転)が架橋に依存して阻害されることを見いだした。このことから、機能に必須な構造変化が実際におきている可能性は高いと考えており、次年度計画している検出実験で、実際の構造変化を捉えることが出来るのではないかと期待している。以上、本年度に目標としていた、本実験のための準備は十分に行うことが出来たと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本研究の核となる「構造変化検出実験」を行う。まず本年度改良した発現・精製系を用いて得た精製固定子を、機能(イオン透過能)を保持したままリポソームに効率よく再構成できるよう、条件の検討を行う。機能の評価は、平行して行っているアイソトープを用いたNaイオン透過活性測定系を用いて行う。安定に再構成リポソームが得られるようになったら、蛍光プローブで部位特異的にラベルした精製固定子を再構成する。その後、研究計画調書に記載した通り、さまざまな条件下での蛍光強度変化を測定することにより、構造変化の検出を試みる。基本的には、当初の計画通りに研究を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に消耗品に経費を当てる。また、成果発表のために外国出張のための旅費を計上している。また、謝金には外国語雑誌への投稿にかかる英文校閲と掲載料を計上している。基本的に当初の研究計画調書通りに研究費を使用する予定である。
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