細菌べん毛モーターにおいてエネルギー変換を担う固定子は、回転子周囲の適切な場所に十数個配置され機能する。ビブリオ菌のPomA/PomB固定子複合体は、モーターに集合するとPomBのペリプラズム領域に構造変化が生じて固定され、同時にイオン透過能が活性化すると考えられている。しかし本当に機能に必須な構造変化が生じているのかは不明である。本研究では、精製固定子をリポソーム上に再構成し、PomBの結晶構造から予測される構造変化部位に、局所環境変化により蛍光強度を変化させるプローブを導入して、構造変化の検出を試みることを最終目標に行ってきた。平成25年度は、前年度に改良したPomA/PomB固定子複合体の精製法により得た精製標品を用いて、リポソームへの再構成を試みた。今回は他の輸送体において成功例の多い、脂質と界面活性剤が混合したリポソームを用いる方法に着目した。この方法では、脂質混合リポソームの形成を溶液の吸光度により検出できるため、前年度に比べて定量性と再現性において向上が見られ、様々な界面活性剤を試すことによって、順方向に固定子が再構成されたプロテオリポソームを得ることが出来た。しかし残念ながら、この再構成リポソームを用いてもイオン透過活性の検出は出来なかった。従って、機能を保持した状態での再構成には成功していない。一方固定子の固定に伴うPomBのペリプラズム領域(PomBC)の構造変化については、この領域における詳細なジスルフィド架橋実験により検証を行い、PomBCの第1ヘリックスのN末端が構造変化を誘起する可能性を示唆する結果を得た。現在、固定子のリポソームへの再構成系の確立に全力を尽くしている。機能的再構成が可能になれば、ジスルフィド架橋実験で明らかになった情報をもとに、蛍光ラベルの導入と構造変化の検出に取り組む予定である。
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