本研究課題では、ES細胞分化誘導系を用いて哺乳類の概日リズム発生メカニズムを解析し、概日リズム形成メカニズムおよびリズム発振と細胞の分化状態との関連についての新たな知見を得ることを目的としている。これまでの研究から、ES細胞には概日リズムは観察されないが、分化過程において時計遺伝子群の概日転写リズムが形成されることが分かっている。また、分化に伴い時計遺伝子Per2の発現量が増加することも明らかとなっているが、その詳細なメカニズムは不明である。 本研究ではまず、分化過程における概日リズムの形成に時計遺伝子近傍のエピジェネティックな変化が重要であるかどうかを調べるために、分化前および分化誘導後28日目において時計遺伝子Per2の転写調節領域のエピジェネティック状態を調べた。その結果、未分化ES細胞と分化誘導後の細胞ではPer2転写調節領域のヒストン修飾状態に違いがあることが明らかとなった。そこで、さまざまなヒストン修飾酵素の阻害剤を用いて未分化ES細胞におけるPer2の発現への影響を調べたところ、ある種の阻害剤によってPer2発現の上昇が見られた。このことは、未分化ES細胞におけるPer2発現の抑制にヒストン修飾が関与していることを示唆している。 本研究によりES細胞におけるPer2の発現抑制に関与するエピジェネティック制御の一端が明らかになった。今後、分化過程におけるエピジェネティック状態の変化と転写リズム形成の因果関係を調べていくことで、概日リズムの発生機構の解明に繋がることが期待される。
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