X線小角散乱はタンパク質分子の形状を評価する手法で、近年、X線結晶構造解析との相補的利用が主流となりつつある。通常の実験では単調な繰り返し作業が続くこと、質を損なうことなくデータ収集効率を向上させるのが容易でないという問題点がある。本申請課題では、多チャンネルセルを開発してこれらの問題を解決することを目的としている。 昨年度は当初の計画通りに進まなかったので、本年度は従来型8連セルについて性能評価と問題点の洗い直しに取り組んだ。セル基盤への窓剤固定化法については、大きく物理的圧着と化学的接着の2つに分けられる。物理的圧着では、観測窓と支持基盤との境界付近に物理的な力が集中してしまい、結果として石英窓が凸面状にたわんでしまった。圧着力を調整することでたわみの度合いは軽減されるが、一方でシール効率の低下による液漏れの可能性が高まることがわかった。 化学的接着として市販のエポキシ系接着剤を使用した場合、接着面積の増大に伴って窓剤に歪みが生じる傾向にあり、今回の目的には沿わないと判断された。そこで熱によって可逆的に軟硬化が調整できる材料を使ってシーリングを検証した。温度を緩やかに変化させて硬化過程を調整することで、エポキシ系接着剤よりも歪みの少ない接着ができる可能性があることがわかった。ただし、この場合にセルの使用温度範囲が限定されてしまうという問題が生じる。これらの問題を加味しつつ最適なシーリング条件を検証し、より大規模な多チャンネルセル開発に向けて取り組んでいく。
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