Photoactive yellow protein(PYP)は光刺激をうけると、構造が変化して光信号を細胞に伝え、その後、元の状態に戻る(光反応サイクル)。光を吸収したPYPは、L → M1 → M2 → PYPと変化するが、生理活性中間体であると考えられているM2では、部分的に蛋白質構造が変性ていると考えられており、蛋白質の変性状態のモデルとして研究されてきた。本研究は光反応サイクル中の各中間体間の構造変化の遷移状態に着目し、構造変化メカニズムに関する知見を得ることを目指している。 今年度は、24年度に構築したマイクロ秒の時間分解能を持つ過渡吸収スペクトルの測定系を用いて、野生型PYPの光反応サイクルを詳細に解析した。過渡スペクトルを特異値分解法で解析し、得られた基底スペクトルを既知の中間体スペクトルで分解することで中間体間の平衡定数を求めた。また、平衡を考慮した速度式を用いてデータをフィッティングすることにより、各遷移の素反応定数を求めた。素反応定数の温度依存性から活性化エントロピー(⊿S)、活性化エンタルピー(⊿H)、熱容量変化(⊿Cp)などの熱力学的パラメータを見積もったところ、L → M1、M1 → M2の過程はいずれも同じような⊿S、⊿H、⊿Cpを示した。一方、M2からPYPに戻る過程で大きな負の⊿Cpを示すことがわかった。負の熱容量変化は、部分的に変性したM2で露出していた疎水部が、遷移状態では蛋白質内部に隠されることを示唆している。そのため、M2 → PYPの過程の遷移状態はコンパクトな構造をもっており、この構造が発色団の再異性化に必須であると推測された。
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