研究課題/領域番号 |
24657109
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
岡野 俊行 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40272471)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 光スイッチ / 遺伝子発現 / タンパク質発現 / クリプトクロム |
研究概要 |
本研究では、申請者がこれまでに独自に同定・解析した新しい光受容分子を光スイッチ分子として利用し構築した、光による遺伝子発現制御系をさらに発展させ、より広くタンパク質活性や生体分子の制御に応用する系の確立を目指している。研究計画に記載の計画に沿って研究を遂行し、現在までに下記の成果を得た。 タンパク質の膜局在の制御に向け、青色光受容体の候補分子であるクリプトクロム(CRY)にGPIアンカーシグナルを付加し、さらにGFPを融合することによって細胞膜に局在化させることに成功した。現在、これを各種の細胞に導入しつつ、相互作用タンパク質の局在を光で制御できるかどうかを検証している。これと並行して、インビトロのスイッチング制御に向けた解析として、抗CRYモノクローナル抗体の作成およびCRYの大量発現を試みた。CRYとして、ニワトリ・ゼブラフィッシュ・アフリカツメガエルのCRYを用い、アミノ酸多様性の高いC末端領域を抗原にして抗体作成を試みた。その結果、ニワトリCRY2, CRY4、ゼブラフィッシュCRY4に対するモノクローナル抗体が複数得られ、ニワトリCRY4に対する抗体の一つは光依存的にCRYと反応した。発現系に関しては、酵母を宿主とする系を検討したところ、GAL4を転写活性化因子とする恒常発現系を構築することに成功した。この系では10Lの培養液より数mgのニワトリCRY4タンパク質が得られ、上記のモノクローナル抗体を用いて、高純度に精製することに成功した。さらに、精製したタンパク質を分光解析したところ、青色光を吸収する酸化型のFADを結合していると推定された。青色光により2段階の光還元が観察されたことから光活性をもつことが明らかとなった。今後は、作成したモノクローナル抗体および精製タンパク質を用いた生化学的解析により、インビトロでの相互作用系の完成を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、研究代表者らが独自に解析し、構築した光スイッチング系をタンパク質分子に応用することを目指している。これまでに、遺伝子のスイッチングは達成していたが、より直接的な相互作用を検出するには、インビトロでの実験が不可欠である。これまでに、大量発現系を検討し、頻用される大腸菌や昆虫細胞ではうまくゆかなかったものの、酵母を用いた独自性の高い系を構築して、発色団が結合した活性のある状態でクリプトクロムタンパク質を発現単離することに成功している。本研究の当初の目的とは異なるが、この系は、真核細胞発現系でありながら、他の系にくらべて、格段にコストが低く、また、恒常発現系であるため、非常に簡便であり応用性が高い。一方、相互作用分子として、クリプトクロムに対するモノクローナル抗体産生株を多数樹立しており、特に、そのうちの一つは、光依存的にクリプトクロムと相互作用するため、スイッチング素子として利用可能である。得られた抗体の抗原部位も決定されており、その情報ならびに、分光解析の結果等から、クリプトクロム分子の光依存的な構造変化の分子機構にも迫ることができる点においても、独自性将来性の高い成果がでている。 以上のように、抗体と発現タンパク質を用いたインビトロ解析の準備がほぼ完了しており、本研究で目的とするタンパク質の光制御が目前となっており、順調に推移していると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
概ね、研究計画に記載した通りに研究を進める。膜局在の制御については、クリプトクロム相互作用分子の蛍光標識タンパク質を発現し、光による相互作用変化をリアルタイムで観察する。一方、インビトロでの相互作用解析系は特に、発現タンパク質を用いた解析の将来性・応用性が高いため、現在成功したニワトリクリプトクロム4以外の分子についても応用したい。これまでに、分光解析により、タンパク質の光依存的な酸化・還元のみならず、タンパク質分子の構造変化に由来すると思われる光サイクル中間体の観察に成功している。作成した抗体のエピトープ解析と合わせて、抗体存在下での光サイクル中間体の変化を調べ、構造変化のメカニズムも探りたいと考えている。このような解析によって、これまでに得られている暗状態でのみ結合する抗体に加えて、特定の中間体でのみ相互作用する抗体が特定できる可能性もある。つまり、抗体を用いた分光解析によって、分子内光情報伝達経路を探ることだけでなく、インビトロにおける相互作用素子としても利用可能と期待できる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度と同様に、概ね80-90%を試薬等の物品費として使用し、残る10-20%を旅費として使用する。 具体的には、物品費として、酵母培養のための培地類と、新たに発現を試みるクリプトクロムをサブクローニングする際に必要な、制限酵素やベクター等の分子生物学試薬類である。また、モノクローナル抗体を大量に得るために、ハイブリドーマの培養、マウスへの投与等が必要であり、そのための血清や培地類、培養用のプラスチック器具類が必要である。 旅費は、研究成果発表のために参加する生物物理学会(京都)および分子生物学会(神戸)への参加に使用する予定である。
|