研究課題/領域番号 |
24657115
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐々木 浩 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (30611454)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | RNA / 1分子イメージング / RNAサイレンシング / 核酸 / RISC / Argonaute / 全反射顕微鏡 |
研究概要 |
RNAサイレンシング機構を担うRNA-induced silencing complex(RISC)やRISC-loading complex(RLC)といった複合体の解明が進み,構成因子としてDicerやArgonaute(Ago),Hsc70/Hsp90などが同定された.しかし,これらの因子がどのように会合して機能的な複合体を形成するか,その順序と構造変化の詳細については未知である.本研究課題では,この謎を明らかにすべく,1分子イメージングにより,細胞内でのRISC形成の分子ダイナミクスを解析する.これにより,これまで未解明であった細胞内でのRISC形成における構造変化と相互作用を解析し,RISC 形成の分子ダイナミクスを統合的に理解することを目的としている. 平成24年度は,RISCが形成される過程を全反射顕微鏡下で解析できるin vitro1分子イメージング系の構築を試みた.ショウジョウバエS2細胞で過剰発現させたHaloタグ融合Agoタンパク質をガラス基板上に固定化し,組換えタンパク質として調製したDicer-2/R2D2複合体やシャペロン因子,さらに2色の蛍光ラベルを3'末端に導入したRNA2本鎖を加えることで,これらの因子依存的に基板上に輝点が観察され,切断活性依存的にRNA2本鎖の片方(パッセンジャー鎖)に対応する輝点が一部消失することを確認した. 次に,構築したRISCの1分子イメージング系を用いて,RISC形成過程の実時間観察を行った.その結果,RISC形成の素過程と考えられる複数の段階を同定するとともに,シャペロンの作用により促進される段階を明らかにした.これまでに明らかになっていなかったRISC形成の素過程とシャペロン因子の作用点を明らかにできたことは,RISC形成の分子ダイナミクスに迫る重要な成果といえる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞内でのRISC形成における構造変化と相互作用を解析し,RISC 形成の分子ダイナミクスを統合的に理解するという本研究の目的を踏まえ,今年度はまず,RISCが形成される過程を全反射顕微鏡下で解析できるin vitro1分子イメージング系の構築に成功した.RISC再構成系を用いて各因子の出し入れを行うことで,因子ごとのRISC形成に対する寄与を調べられる系が構築できたことは,細胞内でのRISC形成の分子ダイナミクス解析を行う前段階として欠かせない.通常の生化学実験と異なり,全反射顕微鏡下で観察できる系の構築には最適化が必要な点が多いが,計画の初年度で観察系の構築を達成することができた. さらに,このin vitro1分子イメージング系を用いることで,取り込まれるRNA分子の挙動を追うことに成功した.その結果,これまでには知られていなかった中間状態の存在を明らかにし,中間状態の形成が起きる必要条件を突き止めることで,RISC形成の素過程とシャペロン因子の作用点という,他の手法論では解析が困難であったRISC形成の分子ダイナミクスに迫ることができた. 以上の結果から,当初の研究計画に即して本研究はおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,まずAgoやDicer-2/R2D2などタンパク質因子を蛍光ラベルして,RISC形成過程の1分子イメージングを行うことで,RNAだけでなくタンパク質の位置も同時に観察できる系の構築を試みる.現在の1分子イメージング系では,タンパク質の位置を間接的に見ているが,これを直接的に測定することで,各因子の結合と解離の順番や時定数をより精密に求めることができる.さらに,RISC形成時におけるRNAの受け渡しやタンパク質因子の構造変化を解析するために,蛍光ラベルしたタンパク質やRNAの組み合わせを変えてRISC採光性を行い,RNA・タンパク質間,タンパク質・タンパク質間でのFRET観察により明らかにすることを目指す.すでに真核生物のAgoについては2012年に結晶構造が報告されており,Agoの分子内に部位特異的蛍光ラベルを導入することで,FRET情報からAgoの立体構造の変化を解析することは十分に可能であると考えている.最終的には,RISC形成のin vitro 1分子イメージング系をマイクロインジェクションや細胞内蛍光ラベル法により細胞に導入することで,細胞内でのRISC形成の分子ダイナミクスを解析する.
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次年度の研究費の使用計画 |
今後の研究の推進方策に示した実験系の構築のために,一般的な分子生物学および生化学実験に必要とされる実験用プラスチック消耗品,顕微鏡観察用ガラス消耗品,試薬類,ラジオアイソトープを含む消耗品費およびDNAシークエンスサービス,細胞へのトランスフェクション試薬,DNAおよびRNAオリゴマーの合成依頼にかかる経費として研究費を使用する.また,情報収集や研究成果発表を目的に国内および国際学会への参加を予定しており,そのための交通費,宿泊費として国内旅費および外国旅費として使用する.さらに,すでに得られた研究成果を論文誌に発表するための費用として使用する.
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