研究課題/領域番号 |
24657116
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
黒柳 秀人 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (30323702)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | リボゾームタンパク質 / mRNAプロセシング / 選択的スプライシング / 線虫 |
研究概要 |
これまでに同定した非生産的mRNAアイソフォームを産生する線虫の6個のrpL遺伝子と2個のrpS遺伝子について、それぞれノックダウン実験を行ってスプライシングパターンの経時変化を解析した結果、自身の生産的アイソフォームの量を負に制御する選択的スプライシングの自己制御機構が存在すること、他のrp遺伝子に対しては逆方向に選択的スプライシングを変化させるリボソームタンパク質遺伝子間の選択的スプライシング制御のネットワークが存在すること明らかとなった。 これらのうちリボソームタンパク質のうちrpL10aをコードする線虫rpl-1遺伝子についてGFPとRFPを用いて蛍光スプライシングレポーター線虫を作製した。そして、このレポーターがrpl-1自身のノックダウンや過剰発現による選択的スプライシングの自己制御を反映することを確認した。そこで、2つの競合的5’スプライス部位の間で線虫から哺乳類にまで広く保存されている約40塩基の領域を欠失した変異型レポーターを作製し、この領域がrpl-1遺伝子の選択的スプライシング制御に必須であることを見出した。さらに、組換えRPL-1タンパク質がrpl-1遺伝子mRNA前駆体中のこの約40塩基の領域を特異的に認識して結合することが明らかとなった。こられのことは、少なくともRPL-1は自身のmRNA前駆体に特異的に結合して選択的スプライシングを制御するスプライシング制御因子であることを示すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
線虫のリボソームタンパク質遺伝子の選択的スプライシング制御について、ノックダウンによる解析は計画どおり行い、自己制御機構とリボソームタンパク質遺伝子間の選択的スプライシング制御ネットワークの存在を明らかにできた。過剰発現については、リボソームタンパク質の過剰発現が毒性を持つらしく株化ができなかったが、このことは選択的スプライシング制御による発現量の制御が生体にとって必須であることを物語っている。 線虫のrpL10aをコードするrpl-1遺伝子については、計画どおり蛍光スプライシングレポーター線虫を作製し、必須のシスエレメントとして約40塩基の領域を特定できた。さらに、平成25年度の計画であった組換えタンパク質を用いた実験を前倒しで行い、RPL-1タンパク質がこのシスエレメントに特異的に結合することが明らかした。線虫rpl-26遺伝子とrpl-30遺伝子についても蛍光スプライシングレポーター線虫を作製した。 一方、哺乳類のrpL10aをコードする遺伝子については、いくつかのさまざまな組織由来の細胞株を用いて、NMDを阻害した条件下で非生産的mRNAアイソフォームの検出を試みたが、これまでのところ検出しできておらず、選択的スプライシングによる遺伝子発現制御機構の存在の確認には至っていない。線虫と同様の自己制御機構が存在するとすれば、内在性rpL10aの発現が低い細胞でrpL10aを過剰発現させた条件下で非生産的mRNAアイソフォームが産生されやすくなると想定されることから、その条件検討の準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
哺乳類の内在性rpL10a遺伝子のスプライシング制御機構の解明:哺乳類の内在性rpL10a遺伝子で線虫と同様の選択的スプライシング制御による非生産的mRNAの発現を確認する。非生産的mRNAの発現が確認された場合は、rpL10aの過剰発現とノックダウンにより、線虫同様に選択的スプライシングの自己制御による遺伝子発現制御機構が存在するか解析する。これが確認された場合は、2種類の蛍光タンパク質cDNAとrpL10a遺伝子のゲノム断片を用いて選択的スプライシングレポーターミニ遺伝子を構築し、レポーターが内在性rpL10a遺伝子のスプライシングパターンの変化を反映するものであることを確認する。さらに、このレポーターミニ遺伝子の改変を通じて、rpL10a遺伝子のイントロンに保存されている約40塩基の領域がrpL10a遺伝子のスプライシング制御に必須のシスエレメントか実験的に確認し、組換えrpL10aタンパク質がこの領域のRNAに特異的に結合するか確認する。 rpL10aによりスプライシング制御を受ける標的遺伝子の網羅的探索と検証:線虫rpL10aをコードするrpl-1のノックダウンによりスプライシングパターンが変化する遺伝子をトランスクリプトーム解析により探索する。ノックダウンが効きやすいeri-1変異体とNMDの標的となるようなmRNAアイソフォームが安定化するsmg-2変異体との二重変異体を作製して用いる。大規模シーケンスのタグの出現頻度の解析によりrpl-1遺伝子のノックダウンでスプライシングパターンが変化する遺伝子の候補を抽出し、実際にスプライシングパターンが変化するか、RT-PCRにより検証する。こうして確認された標的遺伝子について、選択的スプライス部位付近の配列を相互に比較しスプライシング制御のためのシスエレメントを推定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
哺乳類のrpL10aをコードする遺伝子について、配列から予想される非生産的mRNAアイソフォームの検出を試みる。そのために、哺乳類rpL10aを過剰発現するための発現ベクターを作製する。そして、さまざまな組織由来の細胞株に過剰発現させ、阻害剤でNMDを阻害した条件下でRT-PCRにより非生産的mRNAの検出を試みる。これまでの予備実験や文献の報告では培養細胞では生体組織に比べて内在性リボソームタンパク質の発現量が比較的高めで非生産的mRNAアイソフォームが検出されにくい状態になっていると考えられることから、マウスの生体組織や初代培養細胞でNMDを阻害した条件での検出も検討する。
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