本研究では、出芽酵母の25S rRNAにおいて、サルシン・リシン・ループ(SRL)領域に変異を導入し、ベロ毒素等による損傷を受けた機能不全リボソームを模擬し、細胞内での安定性を追跡した。酵母RNAポリメラーゼI変異株のレスキュー系を用いたアッセイでは、SRL領域の塩基はどれを変化させた場合にもリボソームの機能を大きく毀損し、変異25S rRNAは細胞内で迅速に分解されることが分かった。 いくつかの変異25S rRNAについて実験を行い、60S粒子に取り込まれた後に分解される変異体をひとつ、選び出した。この変異体を用いて、出芽酵母の遺伝子破壊株コレクション5000株をスクリーニングし、この変異体の分解に必要とされる因子を同定した。その結果、これまでに活性中心ペプチジルトランスフェラーゼ反応中心に変異をもつ機能不全25S rRNAを分解するために必要だと考えられてきたMms1をはじめ、複数の因子が、SRL領域の変異にも関与していることがあきらかになった。以上の結果はリボソームの品質管理機構が、単純なリボソーム中での変異の位置を認識して行われるものではなく、なんらかの形で機能そのものを監視している、というあたらしい見方を提示している。 本研究では平行して、HeLa細胞にベロ毒素を投与する系での損傷28S rRNAの追跡を行った。qRT-PCRを用いた検出系を利用して定量することで、損傷した28S rRNAが、ゆるやかにではあるが、細胞内で減少していく、という事実を観察できた。今後この系に対して、Mms1のヒトホモログの因子をノックダウンするなどして、動物細胞での品質管理の全体像を解明したい。
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