研究課題/領域番号 |
24657123
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
中川 真一 独立行政法人理化学研究所, 中川RNA生物学研究室, 准主任研究員 (50324679)
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キーワード | 4.5SH / NF110 |
研究概要 |
本研究計画では、非翻訳領域に挿入されたレトロトランスポゾンによる転写後遺伝子発現制御機構を明らかにする事を目的としている。4.5SHは核内に豊富に存在するノンコーディングRNAで、レトロトランスポゾンのSINE B1に高い相同性を示す。これまでの研究で、核内に豊富に存在する4.5SHが、非翻訳領域にSINE B1がアンチセンス方向に挿入されたmRNAの発現を、核内繋留を通して抑制する事が明らかとなっていた。今年度は、4.5SHが実際にそれらのmRNAと複合体を形成しているかどうかについてさらに検証するために、4.5SHに対するアンチセンス核酸で精製してきたときに、それらの標的mRNAも共に精製されてくるかどうかについて検証を行った。まず、精製中に分子同士の再会合が起きるのを防ぐために、ショ糖密度勾配遠心による分画を行い、標的と会合していないフリーの4.5SHを除いた。次に、複合体を形成していると思われるフラクションからRNAを回収し、4.5SHを精製したところ、実際にSINE B1のアンチセンス挿入配列を持つようなmRNAは、SINE B1がセンス方向に挿入されたmRNAと比べると、有為に濃縮されてくる事が分かった。また、同じくこれまでの研究により、4.5SHは二重鎖RNA結合タンパク質であるNF110と複合体を形成している事が示唆されている。今年度は、NF110が4.5SHと標的mRNAとの結合にどのような影響を与えているかを生化学的に解析するためにNF110を哺乳類の培養細胞から精製する事を試みた。ところが、SV40ori-Large TのシステムでNF110を過剰発現しようとしたところ、コントロールに比べて非常に低い発現量しかえられない事が分かった。そこで、コドンを最適化したNF110を作製したところ、非常に高い発現量が得られ、実際に精製タンパク質を得る事が出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、特に、4.5SHが標的のmRNAと複合体を形成しているかについて検証を行う実験に力を注いだ。これまでの解析で、4.5SHの標的であると考えられているmRNA、すなわち、非翻訳領域にSINE B1がアンチセンス方向に挿入されているようなmRNAが4.5SHと共精製されてくる事が分かっており、一定の成果を出す事が出来た。 今後、4.5SHの作用機序を考えるときにはRNAだけでなくタンパク質との複合体の機能解析を進める事が重要となってくる。そのために、4.5SH複合体を形成していると思われる二本鎖RNA結合タンパク質NF110の大量精製が必要であるが、なるべくネイティブに近い状態のタンパク質を精製するため、哺乳類の培養細胞を用いてタンパク質の過剰発現を行ってきた。ところが、これまでは内在のタンパク質の数倍ほどしか過剰発現を得る事が出来ず、生化学的な解析に必要な量を得る事が出来なかった。様々な条件検討を行った結果、コドンを最適化するという手段が最も有効である事が分かり、現在はようやく精製タンパク質が得られるようになった。以上、レトロトランスポゾンによる転写後遺伝子発現制御機構の解明に向けて、一定の成果を得る事が出来た。
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今後の研究の推進方策 |
NF110の精製タンパク質が得られたので、今後はこのサンプルを用いて、4.5SHが標的のmRNAを認識する際に、NF110がどのような機能を果たしているかについて検討を行う。たとえば、4.5SHを標識し、アンチセンス方向もしくはセンス方向にSINE B1が挿入されたようなmRNAと試験管内で複合体形成させたときの反応速度が、NF110の添加によってどのような影響を受けるか生化学的な解析を行う。そのような解析によってNF110の効果が見られなかったときは、4.5SHと標的mRNAのモデル二本鎖複合体を形成させたものに、RNAヘリケースのような複合体を不安定化させるような因子を加え、そのヘリケース活性がNF110によって影響を受けるかどうかについて検討を行う。また、NF110にはいくつかのアイソフォームが存在しており、これまでの研究により、短いアイソフォームであるNF90には核内繋留活性が無い事が分かっている。このような活性の違いがタンパク質レベルで見られるかどうかについて、NF90のリコンビナントタンパク質を作製して検討を行う。
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