研究課題
多くの動物細胞は増殖抑制シグナルによって増殖休止期に移行すると、中心体が細胞表層に移行し基底小体に変換され、基底小体を土台として一次繊毛が形成される。このように細胞増殖サイクルの進行と一次繊毛の形成は相反するが、細胞周期依存的な中心体ー基底小体変換の分子機構は不明である。私達は、ヒト網膜色素上皮細胞(RPE細胞)においてプロテインキナーゼNDR2の発現を抑制すると、血清飢餓依存的な一次繊毛形成が抑制されることを見出し、NDR2が一次繊毛形成に必要であることを明らかにした。一次繊毛形成の初期過程では、中心体の近傍に膜小胞が集積・融合して繊毛小胞とよばれる膜構造を形成し、基底小体へと変換されるが、この過程にはRab8とその活性化因子であるRabin8や、膜小胞の繋留に必要なexocystの構成因子であるSec15が関与することが知られている。私達は、NDR2はRabin8のSer-272をリン酸化し、その結果、Rabin8の結合特異性が変化し、膜小胞を構成する脂質であるホスファチジルセリンからSec15に結合能がスイッチされることを見出した。これらの結果は、NDR2がRabin8のリン酸化を介して、Rabin8の膜小胞から中心体への移行と中心体近傍でのRab8の活性化を促進し、一次繊毛形成の初期過程であるRab8とSec15による繊毛小胞の形成過程に重要な役割を担っていることを強く示唆している(EMBO J., 2013)。NDR2の上流因子として知られるMST/Hippoは細胞増殖を抑制するシグナル伝達経路の主要な因子であり、NDR2-Rabin8経路は細胞増殖抑制シグナルと一次繊毛形成を結びつけるシグナル経路であることが強く示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、増殖抑制シグナルHippo/MSTの下流因子であるNDR2が、Rabin8のリン酸化を介して、その結合特異性をホスファチジルセリンからSec15に変化させ、一次繊毛形成の初期過程である膜小胞の繊毛小胞への変換過程に関与することを明らかにした。これらの結果は、細胞増殖抑制シグナルと一次繊毛形成を結びつけるシグナル伝達経路の存在を新たに示唆したものである。以上のことから、おおむね順調に進展していると判断した。
今後は、血清飢餓や細胞の高密度培養などの増殖抑制刺激において、MSTがNDR2の活性化やRabin8のリン酸化を介して一次繊毛形成に関与しているかを詳しく解析することが重要である。さらに、Rabin8、Rab8、Sec15の繊毛小胞形成における機能の解析や、一次繊毛形成による細胞増殖の制御機構を解析し、中心体ー基底小体変換の分子機構と機能を解明することが今後の重要な課題である。
該当なし
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