研究課題
平成25年度はアクチン重合阻害剤であるラトランキュリンA(Lat-A)処理によって、発現量が急激に増加するACT2 遺伝子に着目して、「ACT2 遺伝子の発現誘導と薬剤耐性の因果関係の検証」をめざした。ACT2遺伝子はテトラヒメナに存在する4種類のアクチン遺伝子の一つである。ACT2遺伝子破壊株の作製を試みたが、大核のACT2遺伝子破壊株を作製することが困難であった。そこで、生殖核である小核のACT2遺伝子破壊株を作製し、接合させて大核のACT2遺伝子破壊株の作製を試み、それに成功した。ACT2遺伝子破壊株の表現型を調べたところ予想通り、Lat-A耐性能を獲得できなかった。野生株でLat-A耐性能獲得とともに出現する新規アクチンがACT2遺伝子破壊株では観察されなかった。これらの結果より、Lat-A耐性能獲得はACT2遺伝子の発現によることが明らかになった。また、テトラヒメナをアクチン重合阻害剤であるLat-Aで処理すると、分裂溝のくびれの進行は阻害されないが、食胞形成は阻害される現象について論文にまとめ、Zoological Science誌に発表した。これは、テトラヒメナの収縮環のアクチン繊維はLat-A に非感受性である可能性、あるいはテトラヒメナの細胞質分裂にはアクチン細胞骨格が関与していない可能性を示唆する。さらに、動物細胞の収縮環アクチン繊維のダイナミックスに不可欠であるADF/cofilinのテトラヒメナのホモログAdf73の遺伝子を破壊しても、食胞形成は阻害されるが、分裂溝のくびれの進行は阻害されないことを論文にまとめEukaryotic Cell誌に公表した。これは、テトラヒメナの収縮環を構成するアクチン繊維のダイナミクスはADF/cofilinによって制御されない可能性、あるいはテトラヒメナの細胞質分裂にはアクチン繊維が関与しない可能性を示唆する。
2: おおむね順調に進展している
ACT2遺伝子破壊株の作成に成功したため、研究は順調に進んでいる。
ACT2遺伝子破壊株の表現型の詳細な検討を行う。ACT2遺伝子破壊株をLat-Aで処理するとアクチン繊維が機能しなくなる。この細胞の表現型を詳細に検討することにより、細胞質分裂にアクチンが関与しているかどうかが明らかになる。また、ACT2遺伝子は飢餓状態におくと発現量が増大するので、飢餓状態でACT2遺伝子破壊株をLat-Aで処理した場合、どのような表現型を示すか検討する。野生型細胞をLat-A処理した時、どのようなしくみでACT2遺伝子が発現するのかを検討する。アクチン繊維の重合状態を感知するセンサー因子の存在を仮定し、アクチン繊維がLat-Aで脱重合されると、センサー因子が活性化し、大核内に移行しACT2遺伝子の発現を誘導するという作業仮説を立て、この仮説の検証を行う。ACT2遺伝子の配列からアミノ酸配列を推定し、Act2タンパク質のアミノ酸配列をウサギ骨格筋アクチンやテトラヒメナのAct1タンパク質と比較した結果、驚くべきことが分かった。これらのアクチンでは既知のLat-A結合部位のアミノ酸配列が保存されており、違いがなかったのである。そこで、なぜAct2タンパク質がLat-A耐性を示すかを調べるため、Act2遺伝子を細胞性粘菌で発現させ、精製したAct2タンパク質を用いて、Lat-Aの作用を調べ、Lat-A耐性能獲得のしくみを解明したい。
使用予定であった旅費を使用しなかったため。旅費で使用する予定。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (6件)
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