研究課題/領域番号 |
24657130
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
早川 公英 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任講師 (60467280)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | アクチン / 力覚受容 |
研究概要 |
張力存在下でのアクチンコフィリン相互作用の解析を行うに先立って、まず張力が存在しない状態でアクチンをガラス表面に固定して、アクチン-コフィリン結合のイメージングによる一分子解析を行った。生化学的手法によりアクチンとコフィリンの相互作用は正の協同性がある事が判っている。コフィリンが十分に低濃度の場合(100nM)には、生化学的に予測された協同性のないと結合ほぼ同等のon rateが観察されたが、コフィリン分子が既に結合している部位の近傍に2つ目のコフィリン分子が結合する時のon rateは協同性のない結合の約3倍に上昇し、結合の正の協同性が一分子観察でも実際に観察出来た。アクチン繊維を安定化させコフィリンと競合するファロイジン(5μM)の存在下ではコフィリンのon rateは約50%低下し、興味深いことに結合の正の共同性が完全に消失した。ファロイジンはコフィリン結合によるアクチン繊維の構造変化を抑制しコフィリンの協同的結合を抑制することが示唆された。 生化学とシミュレーションを用いた予測からは、アクチ繊維上でコフィリン結合の正の協同性が空間的に及ぶ範囲は最初のコフィリン結合部位の隣りの分子のみであると予測された一方で、アクチン線維中のアクチン分子同士の相互作用のコフィリン結合による変化はアクチン100分子程度遠方まで及ぶという結果も報告されている。協同的に結合した2つ目のコフィリン分子が最初のコフィリン結合サイトからどの程度離れているかを解析した所、60nmを空間定数として指数的に結合確率が減衰しており、正の共同性は30-50分子程度遠方まで及ぶことが示唆された。 全反射照明ではガラス面からの距離に応じて励起光強度が減衰するので、輝度のゆらぎはアクチンの空間的ゆらぎを反映している。このアクチン繊維のゆらぎが小さい部位ではコフィリン結合のon rateが低いことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である張力存在下でのアクチンコフィリン相互作用を解析するには、従来の生化学的手法はあまり適当ではなく、一分子イメージングを用いた相互作用解析が必要となる。このとき、張力不在下における一分子イメージングによるアクチン-コフィリン相互作用解析の結果が、過去に張力不在下で行われた生化学的データとどの程度合致し、どの程度乖離しているかの情報なしには、張力がアクチン-コフィリン相互作用にどのような影響を与えたのか解析不能である。そこでまず基礎的な情報を取得する為に張力不在下でアクチン-コフィリン結合の一分子解析を行なったが、当初考えた以上に、生化学実験では情報が得られにくい、すなわち過去に情報のない一分子観察特有の興味深い結果が得られたため、過去の生化学実験と対比しつつより詳細な解析を行った。(結果は投稿準備中) そのため、蛍光標識アクチンの偏光を用いてアクチン繊維の回転ゆらぎを観察する系は構築したものの、アクチン線維の回転ゆらぎとアクチンコフィリン相互作用の関連を実際に解析するには至らなかった。逆にファロイジンがアクチンコフィリン結合の協同性に及ぼす影響については前倒しで検討した。また、溶液粘度を高くすることでアクチン繊維の運動を制限し、アクチン繊維をガラス表面に固定しない準無拘束状態でアクチン-コフィリン相互作用を観察する方法を前倒しで構築して運用した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定を多少変更し、アクチン繊維に張力を負荷した際のアクチン繊維のゆらぎ計測と、張力存在下でのアクチン-コフィリン相互作用の解析を優先して行う。当初の予定ではAlxa488で標識したコフィリンのアクチン分子への結合とアクチン線維の回転角ゆらぎを同時に観察する実験系を構築し、コフィリン結合によるアクチン線維のゆらぎの減少や、コフィリンがアクチン線維に結合した際のアクチンのゆらぎ変化の空間的な伝搬とその時間過程などを観察する予定であった。しかし24年度の研究結果から、協同的な結合の及ぶ範囲が光学顕微鏡の空間分解能を大幅に下回っている(~150nm)事から、ゆらぎ変化の空間的分布を検討するのは手法的な困難が極めて大きいと予想されること、張力によるアクチン切断制御というテーマからはやや派生的な内容であることから、アクチン線維に対して張力を負荷した際に回転ゆらぎが減少するかどうか、回転ゆらぎの減少とコフィリンのon rate減少が相関するかどうかの検討を前倒しして行う。24年度の解析から我々の手法では、生化学的手法では全く解析できなかったコフィリン結合とアクチン切断の空間的関係について検討可能であることが判ったので、26年度にはコフィリンがアクチン線維を切断する様式について解析し、張力がコフィリンのアクチン線維切断に及ぼす影響についても解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
磁気ビーズを使用してアクチンに張力を負荷した際のアクチン繊維のゆらぎ計測を行うため、必要な生化学試薬及び蛍光標識アクチンや精製コフィリンなどの精製タンパク質を消耗品として購入する。また、現在投稿準備中の論文発表に必要な英文校正及び論文掲載費を計上する。研究成果発表のための学会参加旅費を計上する。
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