研究課題/領域番号 |
24657131
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
池ノ内 順一 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10500051)
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キーワード | 細胞膜 / 脂質量 / リン脂質 / ダイアシルグリセロール / THP-1細胞 |
研究概要 |
細胞は、多種類のリン脂質を細胞膜の構成要素として利用しているが、それらリン脂質の細胞に存在する量は恒常的に狭い誤差範囲内に維持されている。したがって、細胞はリン脂質の種類とその量を常に感知して生合成や分解などを調節していると考えらえるが、その原理は不明である。核酸やアミノ酸の代謝過程においては、生成される最終産物が直接その生合成酵素の活性を負に制御するProduct inhibitionという仕組みが知られているが、膜にリン脂質の場合は自由拡散して生合成酵素に直接結合することが困難なため別の仕組みを考える必要がある。本研究では、ヒト急性単球性白血病由来の培養細胞であるTHP-1細胞をPhorbol esterの添加によってマクロファージ様の細胞に分化させたときに、小胞体などの細胞内膜の増大に伴うリン脂質合成量の急激な増加現象に着目して、どのリン脂質のどの生合成ステップがリン脂質量の増加の律速段階になっているかを見極めるという実験を第一目標に行っている。具体的には、分化に伴うリン脂質の組成の変化をLC-ESI-MSによって網羅的に解析するというアプローチと、THP-1の分化過程における脂質代謝酵素の発現変化に着目して、律速段階の酵素の絞り込みを行っている。DAG(ダイアシルグリセロール)の生合成経路に関わる遺伝子変化が顕著であることから、DAGの生合成酵素に関して細胞生物学的手法による解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な種類のリン脂質により細胞膜は構成されており、それらの生合成経路は非常に複雑であるため、その解析は困難が予想された。しかしながら、THP-1細胞がマクロファージ様細胞へと分化するに伴って細胞内膜が増大する際の脂質量の変化の解析および遺伝子発現の変動の結果から、解析対象を絞り込むことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの解析によってDAGの合成量の変化がリン脂質全体の量を制御している可能性が明らかになった。DAGは、ホスファチジルコリンやホスファチジルエタノールアミンなど動物細胞の細胞膜を構成する主要なリン脂質の前駆物質であり、DAGの生合成経路がリン脂質量全体の量を調節する律速段階に位置する可能性は高いと思われる。今後はこの仮説を検証すべく、細胞内膜増大に伴うDAGの生合成経路の重要性の検証や、DAG産生量のフィードバック制御メカニズムについて遺伝子ノックダウンなどの細胞生物学的手法と脂質生化学の手法を用いて詳細な検討を行っていきたい。
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