耳石が欠損するメダカ変異体haの原因遺伝子が、脊椎動物では初めてとなるポリケタイド合成酵素の遺伝子mPKS(medaka polyketide synthase)であることが同定され、表現型の解析より、ha変異体では、耳胞内で炭酸カルシウム結晶を促進する核物質が欠損していると考えられた。本研究は、mPKSの合成産物が耳石形成の核であることが期待され、mPKSが合成する産物を、遺伝子工学、分析化学を用いて同定を試みた。 mPKSの産物の性質を調べるため、ポリケタイドの研究に適し、大量培養が可能なAspergillus Oryzae(ニホンコウジカビ)を利用した。mPKSを導入し、発現を誘導したA.Oryzaeの菌体と培養上清をそれぞれ酢酸エチルで液-液抽出し、脂溶性の画分を得た。これらの抽出物をリンガー液に少量添加し、ha変異体を飼育すると、耳石形成がレスキューされた。このことから、導入株が、確かに活性のあるポリケタイドを産生していることが確認でき、有用な系であることがわかった。また、培養上清にも活性があったことから、ポリケタイドが細胞外に分泌されることがわかった。リンガー液に添加するだけで耳胞に供給されたことから、ある程度水溶性が高く、かつ、微量で作用しうるという性質も示唆された。しかし、現在ポリケタイドの化学構造を決定するために、LC-MSをかけるためのサンプルを調整する段階で、ノイズにまぎれてmPKS特異的なピークを得ることができなかった。従って、構造の決定にはまだ至っていない。 一方、本研究の一環として行われた、動物のPKSのデータベース上での探索とウニでの機能実験の結果、PKS遺伝子はサンゴから脊椎動物まで広く存在し、一般に炭酸カルシウム骨格の形成に寄与していることが強く示唆された。現在論文を投稿中である。
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