研究課題
脊椎動物の骨格は、甲冑魚などの初期の脊椎動物が歯の組織構造に似た外骨格に覆われていたことから、神経堤によって獲得されたとする説が長年信じられて来た。申請者は体節や神経堤の移植法を魚類(メダカ)で開発し、甲冑と同じ外骨格である鱗や鰭条が神経堤由来ではなく体節由来であることを見いだし(Shimada et al, Nature communications, 2013)、そもそも脊椎動物の間葉は、頭部では神経堤由来であるが、体幹部ではもっぱら体節由来であるという、新たな仮説を提唱した。これを検証するためには体節の発生に関する基礎的知見が必須なため、平成26年度はメダカの体節細胞の挙動をIR-LEGOによって詳細に調べた。〔方法〕 熱ショックプロモーターの下流にCreをつなげたトランスジェニックメダカと、恒常的なactinプロモーターの下流にloxPおよびEGFPを導入したトランスジェニックメダカのF1胚の体節の様々な部位に、IR-LEGOシステムを用いて熱ショックを与え、少数の細胞のみ恒常的にGFPを発現させ、細胞の挙動を追った。〔結果〕 体節は分節後、筋節、真皮と筋肉を作る皮筋節、背骨を作る硬節に分かれるが、外骨格がどの部分から作られるかは未だ不明である。そこで各体節の腹側の脊索寄りに位置する硬節と外側前方に位置する皮筋節をそれぞれねらって熱ショックを与え、細胞を追跡したところ、硬節細胞はその後脊索を取り囲むようにして背側に移動し、脊索の液胞化が進むステージになると、一部の細胞はさらに脊索の背側に位置する神経管の周囲を背側に移動するが、鱗の骨細胞には分化しなかった。一方、皮筋節細胞の多くはいったん体節と体節の間に潜むが一部が体表に現れて鱗の骨細胞となった。この結果から、鱗を作る細胞系譜は背骨を作る細胞系譜とは全く独立であることが確認できた。
3: やや遅れている
申請者は体節や神経堤の移植法をメダカで開発し、メダカの鱗が体節由来であることを見いだし、その一般性を検証するためにサメの鱗の発生由来の解明を目指している。しかし体節細胞がどのように鱗の骨細胞に分化するのかは、全く知見がなく、サメの鱗の発由来を調べるために、まず魚類の体節の発生に関する基礎的知見を得る必要があったため。
トラザメ胚の神経堤(神経堤が移動する以前の背側神経管)または体節に、マニピレーターを用いてplasmid DNAを注入し、エレクトロポレーションで細胞内に導入する。注入したDNAがゲノムに組み込まれやすいように、βアクチンやユビキチンなどのユビキタスプロモータ-EGFPにTol2(トランスポゾン)配列を付加したplasmidとトランスポゼース発現plasmidを同時に注入する。プロモーター配列については、まずメダカの配列を試みる。GFPが発現することを確認したら胚を育て、鱗が形成されるステージで固定し、鱗組織をGFP抗体で染色してGFP陽性の骨形成細胞を同定する。コンストラクトは作成済みであり、エレクトロポレーションも準備できている。
平成26年度にアホロートルの細胞系譜解析から、頭部神経堤がヒレの間充織に分化するポテンシャルを持つことが報告され(Taniguchi et al., Scientific Report, 2015)、体幹部では神経堤と体節由来の間充織が分化競合している可能性が判明した。そこで、計画を変更して神経堤由来と体節(特に皮筋節細胞)由来の細胞の挙動解析を行うこととしたため、未使用額が生じた。
体節由来の細胞の挙動解析と学会での発表を次年度に行う事とし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件)
PLoS One
巻: Nov 13;9(11):e112527 ページ: e112527
doi: 10.1371/journal.pone.0112527
Science
巻: 343 ページ: 91-94
doi: 10.1126/science.1244724.
Zoological letters
巻: 1 ページ: 1-16
DOI 10.1186/s40851-014-0001-0