研究課題/領域番号 |
24657149
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
黒田 玲子 東京理科大学, 総合研究機構, 教授 (90186552)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 発生 / トランスジェニック動物 / 左右性 |
研究概要 |
本研究は淡水産巻貝Lymnaea stagnalisの左右巻型決定遺伝子の機能解析に必要なトランスジェニック巻貝作出法の確立を目指して実施している。この巻貝の左右巻型は第3卵割時の割球配置パターンによって決定しており、それは母性因子として伝わる母貝ゲノムの一遺伝子座にコードされた巻型決定遺伝子の働きによることを明らかにしている。この巻型決定遺伝子の特定・機能解析を行うには、発生の非常に早い時期から導入した候補遺伝子を機能させる必要がある。そのため、導入遺伝子を安定して次世代初期胚で母性遺伝子として発現、機能させることが可能なGerm-lineトランスジェニック巻貝の作成が必要不可欠である。先ずは、適切な発現プロモーターの探索と、その発現ベクターがゲノムに取り込まれることを狙った遺伝子導入方法の検討から開始した。多くのモデル生物で報告されているCMVプロモーターによる発現を試みるため、pCS2+発現ベクターに蛍光タンパク質のEGFPまたはDsRedExpressをレポーターとして組み込んだコンストラクトを作成した。これを直鎖状DNAの形にして1細胞期胚にマイクロインジェクションにより導入した。産卵直後の受精卵は第一減数分裂の途中であり、雌性-雄性前核の融合までに、組み換え修復メカニズムによってゲノムに取り込まれることを期待した。胞胚期に達するまでは発現ベクター由来の蛍光が観察され、この種においても導入したベクター由来のプロモーターが機能することを確認できた。ただ、高度な技術を要する工程もあり、未だ導入遺伝子を組み込んだトランスジェニック巻貝の作出には至っていないが、この手法を基に改良を加えていくことを予定している。発現ベクターに内在性のプロモーターを利用することも検討しており、受精卵で母性遺伝子として発現が確認された遺伝子のクローニングもいくつか行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2012年3月末に研究代表者の転職・異動があり、DNAシークエンサー、共焦点・蛍光顕微鏡などの装置の移動、巻貝飼育室の設置と関連研究機器及び巻貝の移動など膨大な時間とエネルギーを費やさざるを得なかった。幸い努力の結果、安定して飼育を続ける環境を整えることができた。トランスジェニック巻貝の作出には、マイクロインジェクションにより初期胚へ発現ベクターを導入し、アルブミンカプセルから単離した初期胚を再度アルブミンに戻して人工環境下で発生させ、それを産卵可能な成貝まで成長させるなど、高度な専門技術を要する工程が連続している。これまで我々が開発してきた研究技術の多くを新しい実験担当者が習得しなければならないが、転職に伴い、その研究技術教育にも時間を要した。トランスジェニック巻貝の作成は近隣生物でも成功例がなく、かつ、発現ベクターのゲノムへの挿入は確率的な要素があり、さらにそれが生殖細胞に伝わらなければならないなど、多くの困難さを抱えている。それらを少しずつ工夫して乗り越えていっているところである。
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今後の研究の推進方策 |
今後も継続して、マイクロインジェクションとキャピラリー培養法を組み合わせた方法でトランスジェニック巻貝の作成を目指す。そのために、先ずはインジェクションによって導入する発現ベクターの濃度や形状、また導入する時期などの条件を検討していく予定である。また、発現ベクターのプロモーターの最適化は内在性のプロモーターを検討しみる。すでにクローニングしたアクチンやチューブリンのプロモーターはユビキタスプロモーターとして、vasa、PL10は生殖細胞特異的発現プロモーターとして機能させることが可能だと予想される。いずれも、母性遺伝子として初期胚で導入遺伝子を発現させることが期待できる。プロモーター配列の取得にはinverse PCR法などを応用して行う。また、25年度の研究実施計画通り、モデル生物で報告されているI-SceI法やトランスポゾン法をこれまでの手法に組み合わせて行う計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初、巻貝の飼育員をアルバイトとして雇用する予定であった。しかし、DNAシークエンサーや蛍光顕微鏡、巻貝飼育に必須の純水作成装置など、非常に重要な研究機器が、老朽化に伴いメンテナンスないしパーツ交換が順次必要となってきており、研究を遂行するためにもその費用を確保しなければならなくなった。したがって、人件費の使用はあきらめることにした。平成25年度年度は新たに修士1名と卒研生2名の学生を受け入れることになった。巻貝は研究に不可欠の研究材料であり、その飼育には専門的な知識が必要なところもあり、教育も兼ねて、巻貝飼育は学生にも担当してもらうことを予定している。また、学生の研究への参加に伴い、前年度よりも消耗品費を増やす予定である。
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