哺乳類の心臓が再生不可能と考えられていたが、マウス新生児数日以内ならば心筋のみならず心機能も回復する (Porrelloら Science2011)。スクリーニングを行なった結果、興味深いことに、既知のクロマチン因子群(van Weerdら Cardiovas.Res. 2011; Takeuchiら Nature Commun.2011; Takeuchi & Bruneau Nature 2009; H22-24文科省若手研究A結果)が心筋誘導時に発現し成体後に減少することを見出した。クロマチン因子であるBrg1-Baf60cの心臓特異的強制発現系(BAF-TG)マウスを作製しMI(心筋梗塞)を発症させたところ、対照マウスとの比較結果から線維化が抑制され予後回復されていた。週毎に心エコー評価を行なったところ、心筋収縮率も回復されていた。この結果は、Baf60cによって心筋遺伝子プロモーターが活性化状態(クロマチン構造が紐解かれている状態)になっており、これが心筋の可塑性に関わっていると考えている。現在Baf60cを抑制する因子も明らかにできており(論文投稿中)、今後は、MI後特異的遺伝子導入を行い、クロマチン因子の発現亢進に伴う心筋再生能との関連を試みる。 さらに、本萌芽研究で、再生能力の高い有尾両生類の心臓再生時、及び、マウス心臓再生可能時においても一過的にクロマチン因子の発現亢進が起る。BAF-TGマウスでは心臓再生の向上が見受けられ、ChIP法により幾つかの心筋遺伝子プロモーター領域でエピジェネティックな変化を見出した(投稿中)。つまり、再生能力低下の原因が心筋細胞のクロマチン構造の安定性が強化されたことによる転写環境の変化と考えられる。 この一連の結果より、ChIP-seqを立ち上げるきっかけをつかむことが出来た。
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