研究課題
魚類・両生類の背側軸形成は、受精直後一細胞期に開始すると考えられている。受精後早期、胚の植物極に微小管が形成される。その後、植物極に存在する背側決定因子が微小管上で輸送され、胚盤細胞に取り込まれWntシグナルを活性化する。これにより背側特異的遺伝子が発現し背側オーガナイザーが形成され背側組織が誘導される。本研究では、ゼブラフィッシュ一細胞期胚における背腹軸形成機構の解析を行った。微小管の構成要素であるalpha Tubulinまたは微小管プラス端結合タンパク質EB1と蛍光タンパク質との融合タンパク質(GFP-Tubulin, EB1-GFP)を卵で発現するトランスジェニックフィッシュを作製し観察を行った。その結果、受精後約20分後に胚植物極に一方向性の微小管が形成され、受精後30分後頃に減少・消失することを見いだした。植物極微小管の形成には、受精を引き金に活性化されるCaシグナルが必要であること、微小管は予定背側方向のプラス端を向けて伸張していることを見いだした。さらに微小管依存性に、小胞構造が背側方向に運搬されることを見いだした。微小管上をプラス端側に移動するモータータンパク質Kinesin Iに会合し、背側決定に必要な分子として同定されたSyntabulinは、卵植物極に局在することが報告されていた。本研究では、Syntabulin-GFPを用いてSyntabulinの移動のライブイメージングを行い、Syntabulinは小胞構造を取り囲んでおり、植物極微小管依存性の小胞構造の運搬に関与する可能性を示唆するデータを得た。さらに、Syntabulinは、アダプター分子Grip2aおよびWntを含む小胞の運搬に関わるWntlessと会合することを見いだした。これらの結果はSyntabulinが、微小管依存性にWnt小胞を運搬することに関与する可能性を示唆した。
2: おおむね順調に進展している
ゼブラフィッシュ一細胞期胚の植物極に形成される微小管形成のイメージングを行った。当初は、in vitroの微小管形成システムを構築し観察する予定であったが、より生理学的なin vivoでの観察を行った、その結果、詳細な微小管形成過程を観察することに成功した。微小管形成を制御するメカニズムに関して、微小管制御分子の探索を行った。候補分子としてCa依存性プロテインキナーゼCamk2g1を同定した。Camk2g1のmRNAは卵植物極に発現していることから、次年度の機能解析の結果につながるものと思われる。微小管依存性の背側決定因子の輸送機構に関しては、微小管上をKinesin Iと会合する分子Syntabulinと、Wntの輸送に関与するWntlessおよびアダプター分子Grip2aの会合を検出することが出来た。さらに、これらの分子の細胞・胚での共局在を観察することに成功した。卵母細胞インジェクション法によりSyntabulin-GFPを一細胞期胚で発現させ、Syntabulinタンパク質が小胞構造と一緒に移動する様子を観察出来た。以上を考慮すると、研究はおおむね順調に進展していると言える。
微小管形成を制御するメカニズムに関しては、同定したCamk2g1の機能解析を中心に行う。微小管依存性の背側決定因子の輸送に関しては、Syntabulinと会合することが見いだされたGrip2aおよびWntlessのライブイメージングを行う。また、Syntabulin-Wntless-Grip2a複合体のWnt輸送における役割を解明する。
微小管形成を制御するメカニズムの解明:Camk2g1を阻害するペプチドAIP2が報告されており、これを母性プロモーターを用いて発現させCamk2g1の機能を阻害し、微小管形成および背側形成における役割を解析する。微小管依存性の背側決定因子の輸送のメカニズムの解明:Grip2aおよびWntless、また背側決定因子の候補であるWnt8aと蛍光タンパク質との融合タンパク質(Grip2a-mCherry, mCherry-Wntless, mCherry-Wnt8a)を卵母細胞インジェクション法またはトランスジェニックフィッシュを作製することで、一細胞期胚で発現させ、これら分子の移動をライブイメージングで観察する。Syntabulin, Grip2aに関しては、その変異体では背側決定に異常を見いだすことが知られている。本研究では、WntlessおよびWnt8aの母性遺伝子効果変異体の作製を行い、Wntless, Wnt8aの背側決定における役割を解明する。
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