研究課題/領域番号 |
24657155
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
竹内 隆 鳥取大学, 医学部, 教授 (70197268)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 発生 / 再生 / 有尾両生類 / 分子遺伝学 / トランスジェニック / イベリアトゲイモリ / 近交系 / 純系 |
研究概要 |
本研究の目的は、イモリが持つ顕著な再生能力を分子遺伝学の手法で解析し、その機構を解明し得る実験システムの確立にある。そのシステムを利用すれば、イモリの再生能力の分子背景を明らかにする強力なツールとなるだけでなく、広く他分野への応用が期待できる。そのために、これまで使われてきた日本産アカハライモリに代えて、大量繁殖が可能なイベリアトゲイモリを導入して、研究を推進する。 分子遺伝学を可能とする再生実験システムの整備に向けて、平成24年度に計画・実施した研究項目のうち、性成熟までの期間の短縮については飼育条件等の検討により、これまでの受精後7-9ヶ月から、最短で5ヶ月にまで短縮することに成功した。Cre-loxP 組換え系の構築については、心筋特異的にCreを発現するトランスジェニックイモリと、全身性プロモーターとGFP遺伝子の間にloxP配列で挟まれたStopコドンを挿入したコンストラクトをもつイモリを作製した。これらのイモリを用いて、心筋細胞特異的にGFPの発現が誘導できることを初めて示した。現在はこれらのトランスジェニックイモリの系統化を進めている。これらの成果は本研究の平成25年度の計画にあるコンディショナル遺伝子ノックアウト技術の開発を推進する上で重要な基盤となる。 これらに加えて研究用イモリの純系統確立に関しても、兄弟間の交配による純系化が順調に進んでいる。性成熟までの期間が短縮できていることから、純系化の速度も速まると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
性成熟に要する期間の短縮に向けて飼育条件の検討を行った結果、最短で受精後5ヶ月まで短縮することができた。加えて、幼体に投与する脳下垂体刺激ホルモンとFSHおよびLHの投与条件を検討できた。これの成果により、今年度に行なう幼体でのホルモン処理の併用でさらなる期間の短縮の展望が拓けた。 Cre-loxP 組換え系については、まず心筋細胞特異的な実験系の構築を進めた。その結果、必要なトランスジェニックイモリを作製することができた。ついで、組換えを誘導するタモキシフェンの処理条件の検討を行い、適切な条件を決定した。これにより、タモキシフェン依存的な心筋細胞特異的GFPの発現誘導を起こすことに成功した。この過程で作製した心筋特異的ER-Cre発現イモリの系統は、平成25年度の計画にあるコンディショナルノックアウトイモリの作製に利用できるため、重要な成果である。 精子ゲノムを破壊するための適当なX線の線量決定に先んじて、より効率の良い人工授精法の確立を行った。そのため、X線量の検討を進めることはできなかったが、本研究全体の推進に重要な人工授精の技術を改善することができた。 さらに、心筋細胞特異的組み換え系の構築が順調に進んだことにより、25年度の計画を前倒して、TALENを利用したイモリの遺伝子ノックアウト作製の研究に着手できた。従って、研究全体として概ね計画通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は主として、コンディショナノックアウト法の確立と純系イモリ系統の樹立を計画する。 平成24年度の研究により作製されたトランスジェニックイモリを利用することで、心筋細胞特異的な遺伝子の破壊系を構築する。当初はイモリの心臓再生に重要な働きを持つと考えられているFGF2 を破壊する計画であったが、これに加えて、心臓の発生に重要な転写因子であるNkx2.5の破壊も行う。これらの遺伝子配列を破壊するように設計したTALENを再生時期特異的に発現誘導できるプラスミドベクターに組み込んで、受精卵に注入することでトランスジェニックイモリを作製、遺伝子破壊を試みる。 遺伝子の破壊(不活化)については、PCR法ややサザン、ノザン、ウェスタンブロット解析で確認する。このコンディショナノックアウト法は、両生類の再生機構解明に向けた実験系としての重要性が高まっていることから、特に強く推進する。 純系イモリ系統の樹立に向けては、家族間交配が順調に進行しているため、これを継続すると同時に、性成熟までの期間の短縮法を組み合わせることで目的の達成を目指す。加えて、単為発生を介したより早い時期での純系樹立に挑戦する。このためにX線の照射によってゲノムを破壊した精子を用いた卵の受精と、卵由来のゲノムを温度処理による倍化、単為発生の条件検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の進展に伴い、重要なトランスジェニックイモリ個体、および純系化の過程にあるイモリの個体数が大きく増加した。このため、それらイモリ個体を適切に飼育・管理するため費用として使用する。 平成24年度の研究により構築した心筋特異的Cre-loxP 組換え系を応用したイモリの再生時期特異的コンディショナルノックアウト系の確立に必要な実験試薬を購入する。これに伴い、遺伝子破壊が正確に起こったか否かを判定するために必要な試薬および、遺伝子シークエンス解析の費用として使用する計画である。 さらに、計画の最終年度であることから、研究成果を広く公開・発信するための学会参加費および国際学術雑誌への投稿費としても使用する。
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