多能性と自己複製能を持つ正常な造血幹細胞をES細胞から試験管内で誘導することは極めて困難であり未だに実現されていない。ES細胞もしくはiPS細胞から造血幹細胞を誘導できれば、造血幹細胞の発生機序を解明する優れた実験ツールとなる。また、骨髄に代わる新たな造血幹細胞の供給源として血液疾患の病態解明や移植医療においても重要な技術である。本研究は、遺伝子強制発現などの遺伝子操作を介さずに、マウスES細胞およびiPS細胞から多能性と自己複製能を持つ正常な造血幹細胞を試験管内で分化誘導する培養システムを開発することを目標とした。まず、C57BL/6(Ly5.2)×CBA(Ly5.2)F1マウス由来のKTPU8 ES細胞株を、IV型コラーゲンでコートした培養シャーレを用いて培養し、中胚葉細胞を分化誘導した。次に、VEGFR2の発現を指標にしてautoMACSにより純化した中胚葉細胞をIV型コラーゲン培養シャーレの中で無血清培養し、血管内皮細胞とCD41+前駆細胞を誘導した。このとき、VEGF、BMP4、一酸化窒素ドナー、GSK3β阻害剤、カテコールアミン等を様々な組み合わせで無血清培養液に添加した。誘導された血管内皮細胞とCD41+前駆細胞をFACSによりそれぞれ純化し、TPOとSCFを添加した無血清培養液中で培養し、血液前駆細胞の発生とその増殖を促した。一部の培養は低酸素分圧下で行った。 誘導した血液前駆細胞の長期骨髄再建能を確認するために、放射線照射したC57BL/6(Ly5.1)×CBA(Ly5.2)F1マウス成獣に、ホストと同系のマウス骨髄細胞と共に移植したが、1~3ヶ月後の末梢血の解析において、いずれの条件においてもES細胞由来の血球(Ly5.2/Ly5.2)は検出されておらず、引き続き検討が必要である。
|