研究課題/領域番号 |
24657160
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
福澤 雅志 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (10231557)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 有性生殖の起源 / 藻類 / 細胞性粘菌 / OTOKOGI / MID / マクロシスト / ホモタリック / 同型配偶 |
研究概要 |
モデル生物「細胞性粘菌」は藻類とは別の系統樹に位置し、有性生殖においてヘテロタリックあるいはホモタリックな同型配偶を行う。本研究は、細胞性粘菌のOTOKOGI (MID)遺伝子オーソログ Ddmid に注目し、それらの機能解析により細胞性粘菌の性を解き明かし、藻類の雌雄異体の同型配偶とは異なる視点で雌雄性成立の進化的問題に挑む。 初年度は、細胞性粘菌の Ddmid が有性生殖に関わるか、分子遺伝学的解析を行った。藻類では雌雄異体であり、MID遺伝子はオスのゲノムにしかない。細胞性粘菌の交配型タイプ1~3について、DdmidA、Bはすべての型のゲノムに確認されたことから、MIDは雌雄の区別には関与していないことが示唆された。また、リアルタイムPCR解析の結果、有性生殖におけるDdmidA、Bの発現はタイプ1ではともに半分に低下し、タイプ2では増加(midA;6倍, midB; 2 倍)していたので、交配型特有の発現調節が示唆された。 過剰発現株の解析により、タイプ1でのDdmidB過剰発現株がホモタリックな接合を行い、不完全なマクロシストを形成することを確認し、pseudomacrocyst (PM)とした。PMは通常のマクロシストと形態は似ているが、細胞壁が不完全であった。DdmidA、B遺伝子破壊は、タイプ2株の遺伝子導入法が確立されていないため困難であったが、さまざまな試行錯誤を経て、それぞれの破壊株を作製することができた。これらに対してヘテロタリックな有性生殖をテストした所、すべて通常のマクロシスト形成が見られたことから、Ddmidはヘテロタリックな性決定には関与しないことが明らかになった。 本年度に得られた知見から、DdmidBはホモタリックな有性生殖への関与が示唆されたため、唯一のホモタリックな野生株であるAC4を用いて機能解析をすすめていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞性粘菌のOTOKOGI遺伝子(Ddmid)の有性生殖への関与について、過剰発現や遺伝子破壊などの分子遺伝学的解析を行い、DdmidBがヘテロタリックな有性生殖過程には必要ないが、タイプ1での過剰発現でホモタリックな有性生殖過程が見られるようになることが明らかになった。本年度の結果より、Ddmidはホモタリックな系で有性生殖に関与するのではないか、という仮説に至ることができたので、当初の計画通りの達成度と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究の達成目標および研究計画に沿って、(1)Ddmidはホモタリックな系で有性生殖に関与するのではないか、という仮説の検証、さらに研究目的の一つである(2)有性生殖過程の核ラベルによる可視化について、の研究を遂行する。 (1)については、ホモタリック型AC4株のDdmidB遺伝子の構造を決定し、過剰発現と遺伝子破壊を行い機能解析する。また、タイプ2株はまれにホモタリック接合を起こすことが知られているが、この系を用いてタイプ2でのDdmidB遺伝子破壊株がホモタリック接合に欠陥があるかどうかを明らかにする。 (2)については、核ラベルのためのコンストラクトや形質転換株は作製済みである。詳細な解析には、多重蛍光画像を長時間タイムラプスで撮影する必要があるが、その設備が周辺に存在しないため、現状では共焦点顕微鏡を用いて静止画によるデータを収集する。また、本年度の研究で、ヒストンを用いた核ラベルが融合初期では核のトレースが可能だが、マクロシスト形成期では融合核以外の核もラベルされてしまうため、融合核の動向を追えないことが判明している。この問題を解決するためには、他の核マーカーをいくつかテストする、あるいは融合核付近で存在する特徴的なチューブリンを指標に、あらたなラベルを開発するなどの追加実験が必要である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該研究費の繰り越しは、申請した研究経費に含まれていたリアルタイムPCR装置の部分が、交付額決定後の減額により研究遂行上導入できないと判断したため、他の用途に有効に使用された結果である。翌年度の交付額は99万円を申請していたが、減額後60万円の予定であり、一年間の研究遂行にはかなりの不足が生じると予測されるため、繰越額を合わせた予算で研究を進める。
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