研究課題/領域番号 |
24657160
|
研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
福澤 雅志 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (10231557)
|
キーワード | 細胞性粘菌 / 有性生殖の起源 / 雌雄性成立 / 同型配偶 / ホモタリック接合 / otokogi / minus-dominance / マクロシスト |
研究概要 |
本研究は、細胞性粘菌のOTOKOGI (MID)遺伝子オーソログ Ddmid に注目し、それらの機能解析により細胞性粘菌の性を解き明かし、藻類の雌雄異体の同型配偶とは異なる視点で雌雄性成立の進化的問題に挑む。 昨年度は、(1)細胞性粘菌の DdmidA、B、Cはすべての型のゲノムに確認され、MIDは雌雄の区別には関与していないこと、(2)DdmidBの過剰発現は不完全なマクロシスト(pseudomacrocyst;PM)を誘導すること、(3)DdmidBの遺伝子破壊はマクロシスト形成を阻害しないこと、を示した。これらの結果は、DdmidBはヘテロタリックな性決定ではなく、ホモタリックな有性生殖への関与を示唆している。 これらをふまえて、本年度は(1)まれにホモタリック接合を起こすタイプ2株のDdmidBの遺伝子破壊株(midB KO/V12株)におけるPM形成、(2)唯一のホモタリックな野生株であるAC4株におけるDdmidBの解析、を主にすすめた。 (1)について、タイプ2株であるV12株のホモタリック接合を誘導する系を確立した。その結果、midB KO/V12株ではホモタリック接合を問題なく起こすことが明らかになった。(2)について、全長がゲノム PCRで増幅されないこと、増幅される領域は短いこと、がわかった。さらにAC4株のゲノムを用いてPCRやRACE法によりmidB locusを得ることに成功し、全塩基配列を決定した。その結果、AC4株のmidBはタイプ1とくらべて塩基の欠失が3‘側で数カ所にわたり顕著であり、“変異型” midBであることがわかった。AC4株において、他のmid(midA, midC)はゲノムPCRで見る限りタイプ1と同じと考えられたので、midBが特異的に変異しており、これがホモタリックな接合に関連している可能性が示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は過剰発現や遺伝子破壊などの解析で、Ddmidはホモタリックな系で有性生殖に関与するのではないか、という仮説を立て、唯一ホモタリックな野生型であるAC4株におけるDdmidBの構造を明らかにした。しかし、担当学生の卒業により、他の研究目標であるイメージング解析が計画通り進んでいないので、当初の計画よりやや遅れている達成度と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度は前年度までの研究を継続して実施し、実験結果の整理や論文作成を行う予定である。 機能解析として、本年度作成したコンストラクトにより、AC4株の変異型DdmidB遺伝子の過剰発現と遺伝子破壊を行い、DdmidBがホモタリック型接合に関与するのかどうか明らかにする。 有性生殖過程を核ラベルにより可視化するイメージング解析については、新たに研究室配属となった学部学生を中心にすすめる予定である。また、高速シークエンサー解析のためのサンプル調製も行う予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
最終年度に高速シークエンサーを利用する可能性があるため当該研究費の一部を次年度使用額として繰り越した。 高速シークエンサーの解析費用は高額であり、シークエンスランのために次年度使用額を含めた当該年度予算のほとんどを投入することになると研究に支障が出るため、必要額によってはRNA精製からライブラリー作成までのサンプル調製をおこなう実験となることを予測している。イメージングなど他の実験も含めて総合的に判断し、繰越額を合わせた予算で研究を進める。
|